第11話
一瞬我の思考が完全に停止したが、すぐに思い直す。
葵の一声でピタリと動きが止まったゴブリンロードの隙をつき、何も考えず無我夢中で『転移の魔眼』を使って葵のそばに転移すると、もう一度『転移の魔眼』を発動し、森の木々に紛れる。
木陰に隠れた我はさっきまでの感傷も、何もかも全部忘れて葵に向かって叫んだ。
「なんで戻ってきた!葵!」
せっかく我が時間を稼いだというのに!
今の転移で結界の端から離れてしまった!
このままでは葵まで殺されてしまう。
そうなれば我はなんのために死ぬというのか。
必死の感情を伝えようと、我は無い気力で葵の方を向く。
その顔は怒りに溢れ、眼には涙がたまっていた。
何で葵が怒るんだ……?
「空人……、なんで、私を一人で逃がそうとしたの?」
その声は、すぐ目の前に命の危機があるにも関わらずあまりにも落ち着いていて、それでいて滲み出るような怒気を纏っていた。
「葵を巻き込まないために決まってるだろ、何を言ってるんだ……、なんで葵が怒るんだよ「怒るよっ!」」
さえぎってきた葵の声に我は思わず呆気にとられた。
葵のこんなに真剣な声は、初めてだったから。
「私はそんなに頼りない!?空人は、空人は私と同じ子供では無いかもしれないけど!友達だとは思ってくれてると思ってたのに!」
「は?だからだろう!大事な友達だからこそ守りたいと思ったんだろう!」
「命かけてまで助けられても嬉しくないのよ!バカなの!?」
「ばっ、ばか?」
我が、馬鹿だと?
呆気にとられる我に葵は続ける。
「そう!バカ!空人は大馬鹿野郎よ!友達って言うのは一方的に守るモンじゃない!助け合うモンなの!それを空人は勝手に私一人だけ助けようとして!」
コイツ
……いや、そういやコイツ、まだ六歳児、子供だったな。
「お前な……」
「空人がここから出るまで、私ここから絶対に出ないから」
葵は涙を拭き、我の眼をまっすぐに見つめる。
葵の瞳は一切の揺らぎがない。
でも……
「俺は
そう言うと、葵は何でもない事かのように言った。
「あ、そうなの?じゃぁあいつを倒してやろう。二人で。出来るか出来ないかなんて関係無い。やるのよ。ここまで言ってもまだ私に逃げろとか言うなら絶交するわよ?」
本当に、何言ってんだ、コイツ。
現実が見えてない。
今の我と葵であいつに勝てるわけがない。
でも……。
魔王でも、最強でも無い、ましてやこの世界では最弱とさえいえる我を、命を懸けてまで信じてくれるこの友達が居る事実が、どうしようもなく嬉しいと感じる我が居る。
それだけで、出どころの無い自信で全身が満たされていく。
それだけで、心の奥底から、生きたいと思える。
「頼っても、いいのか?」
「当たり前でしょ?」
魔王時代は人を頼らねばできない事など一つとしてなかった。
けど、今の我にはできないことだらけだ。
それを補い合うのが友達なのだというのなら。
我は大事な友達を危険にさらす覚悟を決めよう。
「よろしく、頼む」
「うん」
覚悟を決めてそう言うと、葵はこんな状況にもかかわらずにっこりと笑った。
_______________________________
「さて、二人であいつを倒そうとは言ったものの、どうしたものか……」
「何か作戦とかでどうにかならないの?」
「ならない」
「そっか」
そんな簡単にできるならこんなに悩まない。
葵と話し、覚悟を決めた我だったが、具体的な勝算が見つかったわけではなかった。
相変わらず我はあのゴブリンロードの前では大幅に弱体化する上にダメージに至っては全く与えられない。
ちらりと、『看破の魔眼』で葵を見る。
_______________________________
名前 天道葵
職業 なし
称号 絶対魔王ぶっ殺す世界の住人 天才児
加護 なし
基礎能力値
HP 20/20
MP 12/12
物攻 2
物防 2
魔攻 11
魔防 9
敏捷 7
幸運 100
スキル
地球人Lv1000(対魔王攻撃力1000倍、魔王攻撃無効、魔王防御無視、対魔王超デバフ、対魔王再生超鈍化etc) 天才Lv5
________________________________
葵のステータスは見ての通り六歳児相応に低い上、戦闘スキルなど無い。
理論上は葵ならゴブリンロードにダメージを与えられるが、このステータスでは無理だ。
もし奇跡的にダメージを与えられたとしても、それ微々たるものだし、『再生Lv1』によってすぐ再生されるだろう。
ただでさえあのゴブリンロードは『女神の加護Lv5』によってステータスが強化されているのに……。
ん?強化?
「それだ!」
「え?」
我は光明を見出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます