第42話 「八宝菜と恋心」
僕は、京都から東京に移動中の新幹線の中で、
「1通、京都からの手紙を見つけた。差出人はやはり『中村豊彦』とあり。内容は、1人娘の話だが、やはり娘の名前は『凜』とあった。日常のありふれた近況。」という内容である。こうして、予想通り、高木大知と中村豊彦はついに繋がったのである。
「そうでしたか。わかりました。またお会いして調査結果とその手紙についても会って説明します。」
そう言って僕は手短に電話を切った。それは、今回、京都でわかった事実と合わせて、整理してから、しっかり彩花に説明するのが良いと考えたからである。
事実を確信した僕は、逆に少し落ち着きを取り戻し、しかし、どのように、この事実を、彩花と共に考えたら良いのかと冷静に考えはじめていた。
そして場面は、東京になる。美幸の住む八丁堀駅に着いたのは15時過ぎだった。
僕はラインの美幸からの連絡を確認した。
やはり、返事はない。
スナック夕焼けの今月シフト知っていたし、美幸は、今日も普通なら自宅に18時には戻る。美幸の職場も今は残業代がつかないように定時にあがらせる。また、保険請求などの繁忙期は、効率的に派遣社員を雇うようで残業も必要ないとか。
まあ、いいや。美幸のアパートに着いて一休みする。窓を開けてみる。水色の白い空。都会の喧騒は、何か静かに遠くに聞こえるくらいで、意外と静かである。車の音も人の流れも止まるような昼下りである。そよぐ爽やかな風が吹き抜ける。
さて、美幸のキッチンの食材を確認する。人参、玉ねぎ、しいたけがある。僕は、美幸宅に荷物を置くと、買い出しに出た。近くにスーパー「カクエツ」があるのは、知っている。テキパキと必要なものを買い出しすると美幸宅に戻り、調理を開始する。
僕の料理のこだわりは兎に角は「健康第一」である。どんなに美味しくても身体に優しくない料理は美味しく感じられない。
美幸の健康も考えなくてはね。美幸は、大体は、カロリーが低い春雨スープとかしか食べてないから、栄養が不足しているのではないかなあ。
チャラ、チャチャチャチャチャ、チャチャチャチャチャ、チャラチャチャチャチャチャチャ・・・・・♪
まずは、購入してきた白菜の葉を2枚くらい剥ぎ取ると、ざく切りにする。白菜は「ザクザク」と音を立て、きれいに切れた。
冷蔵庫にある、しいたけをきざむ。人参はキッチンの隅にある野菜置き場にあり、取り出して切った。
あとは購入してきた、たけのこも、ざく切り。大きめに切る。たけのこちゃん大好きである。ピーマンも3個くらいをみじん切りした。全てどんどんフライパンに投げ込む。
冷凍庫に、保存冷凍で使いやすいタイプのバラ肉があったから、バラバラ掴んで入れる。また、海鮮ミックスが冷凍庫に少しだけ残っていたから、使ってしまえ。「えい!」フライパンに投げ込む。ごま油をかけて、炒める。
「ジャー、ジャー。」
音がする。しばらく炒める。肉が冷凍だから、水を入れた。肉が炒められ、野菜もやわやわになり過ぎになってきた。肉を先に炒めたら良かったんだなあ。
塩、胡椒、やや醤油、そして水を入れ、中華の練った素を入れる。
「ジャー、ジャー。ジャー。」
次に、もやし、うずらの卵をいれ、さらには、片栗粉を水に溶いて流し込んだ。もやしは最後に入れてシャキシャキ感を残すのだ。
うずらの卵大好き。もともとの卵好きに加えて、プリップリと、テカテカした、ミニサイズな、うずらの卵が大好物である。
よしよし!
なんちゃって八宝菜の出来上がり。きくらげ、ヤングコーン入れたら本格的だがなあ。
うずらの卵を入れたし良しとしよう。味見しながら醤油を加える。ふむふむ。なかなか深みのある
あと、得意のピリ辛、きんぴらごぼうを作った。フレッシュな、トマトは切ってラップして冷蔵庫に入れる。ワカメ、ネギだけの具材の
ご飯は、美幸が帰るだろう19時にタイマーをセットした。
時計を見ると16時過ぎだった。寝よう。美幸の押入れから毛布を出して、クッションを枕にして床で昼寝した。
スヤスヤ
スヤスヤ
スヤスヤ
スヤスヤ
「おいおい。ツンツン。」
僕は柔らかな指に頬を突かれて、目を覚ました。
そこには、美幸が居る。
「ああ。帰ったのかぁ」
「ごめんね。連絡してなくて」
「………全くなあ。昼休みにスマホ見ないのか?」
「ごめ〜ん。
「医事課の?」
「そうそう。お父さんが医師の」
「ああ確か、一人暮らしを反対されているお嬢様だっけかあ?」
「そうなんだよねえ」
「まあ家族にしかわからない事もあるしね。いつか話したけど、問題解決はさ『自分の相手への対応は変えられても、人は変わらないのが原則』だからね。そこのアドバイスの仕方なんだよ」
「そうそう。それわかるよ。舞ちゃんなりに出来る事なんだよね、わかった」
「で、ご飯食べたの?」
「食べるわけないし」
「ありがとう。じゃ『くうかい』?」
「最澄」
「真言宗だっけかなあ」
日常に潜む小さな、実は計り知れない大きな幸せを僕は噛みしめるのである。
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