第56話「そして次の日」
次の日。
俺は部屋のベッドで横になりながら、昨日の出来事を思い出す。
昨日は、土曜日だけど有栖川さんがうちへ遊びに来てくれて、一緒に漫画を読んで、それから一緒に喫茶店でご飯を食べて、午後にはショッピングモールへ遊びに行って映画を観たりもした。
そしてその帰り道、俺はついに有栖川さんへ告白をした。
今思い返してみても、我ながら大胆過ぎた行動だと思う。
有栖川さんの返事によっては、せっかくこれまで築き上げてきた関係が壊れてしまう事になっていたかもしれないわけで、そう思うと今更ながら恐ろしい事をしたのだと実感する……。
けれど、それでも有栖川さんからの返事はまさかのオーケーで、その結果俺は晴れて有栖川さんの彼氏になる事が出来たのだ。
そんな、未だに夢なんじゃないか? と思えるような信じられない結果に、俺は何とも言えない不思議な感覚に包まれているのであった――。
「ねぇ健斗くん、これも面白いですね!」
しかし、その声で俺は昨日のあれは確かに現実なんだと実感させられる。
今日も俺の部屋へと遊びに来ている有栖川さんは、すっかりお気に入りな人を駄目にするクッションで駄目になりながら、楽しそうに漫画に没頭しているのであった。
「でしょ? 後半はもっと面白いよ!」
「むむっ! それは期待大ですねっ!」
俺がそう返事をすると、楽しそうに微笑む有栖川さん。
そんな、やっぱりやっている事はこれまでと変わらず、こうして二人でのんびり過ごす時間はとても居心地が良かった。
こんな風に、側に彼女がいてくれている。それだけでこんなにも心が満たされてしまうのだ。
そして、誰もが振り返ってしまうような美少女が、ぐでっとクッションに座って完全に気を抜いている姿を拝めるだけで、彼氏の特権だと言えるだろう。
そんな優越感も相まって、ただ好きな漫画を読んで過ごすだけのこの時間も、俺は楽しくて仕方がないのであった。
「んー」
しかし、俺がそんな事を考えていると、突然少し不満そうな声を上げた有栖川さんはクッションからムクッと立ち上がる。
そして、読んでいた漫画をパタンと閉じると、そのままツツツとベッドで横になって漫画を読んでいる俺の方へと近付いてくる。
「ど、どうした?」
「私、思うんです」
「な、何を?」
「……その、せっかくお付き合いしたのに、これでは以前と何も変わりありません」
頬を赤くし、恥ずかしそうにそんな文句? のような事を言い出す有栖川さん。
たしかにそれは言う通りで、まだ俺達は彼氏彼女らしい事は何もしていないのであった。
そして有栖川さんは、何か言いたそうにしながら、恥ずかしそうにチラチラとこちらを見てくる。
俺もエスパーではないため、そんな有栖川さんが何を思っているのかまでは分からず、どう反応していいのか困ってしまう。
「んんー! えいっ!!」
「うべぇ!?」
すると、まるで堪えていたものが吹っ切れたように、そんな掛け声と共に有栖川さんはベッドで横になる俺のもとへといきなりダイブしてきた。
その予想外の行動、そして衝撃に、俺は思わず変な声を上げてしまう。
「私も一緒に漫画読みますっ!」
しかし有栖川さんは、そんな俺の事などお構いなしに、顔を真っ赤にしながらそんな事を宣言する。
すぐ顔の前で一緒に横になる有栖川さんのそのご尊顔に、俺まで顔が真っ赤になってしまったのは言うまでもない。
「……え、えっと、じゃあ、うん。いいよ」
「えへへ、近いですねっ」
そんな彼女からの可愛すぎるお願いを断れるはずもなく、勿論オーケーすると有栖川さんはそれはもう嬉しそうに微笑んだ。
そんな無垢で可憐な微笑みを前に、俺の胸はドキドキと高鳴り出してしまう――。
「もうクッションはいいの?」
「あれは私のお気に入りです! ――でも、今はそれよりも健斗くんの隣の方がいいです……」
「そ、そっか」
「はい、私は今、物凄く納得しちゃってるんですよ」
そう言って有栖川さんは、読んでいる漫画のページをペラペラと捲る。
そして、そのままとあるページを開いて俺に見せてくれたのだが、そのページには眠る主人公の隣にそっと添い寝するヒロインの姿が描かれていた。
「――たしかに、好きな相手の隣で一緒に横になるというのは、とってもドキドキするものなんだなと……」
恥ずかしそうに、そんな気持ちを教えてくれる有栖川さん。
その言葉、そして仕草は最早可愛いの最上級で、俺はもう堪え切れなくなってしまいそんな有栖川さんの事をぎゅっと抱きしめてしまう。
「……じゃ、じゃあ、これはどうかな?」
丁度、その漫画の続きでは、寝ぼけた主人公にヒロインの子が抱きつかれて真っ赤になってしまうという展開のため、俺はそれに倣ってそんな質問をしてみる。
勿論その質問をする事が理由ではなく、ただ俺は有栖川さんの事を抱きしめたくなってしまっただけなのだが――。
「……と、とってもドキドキします」
すると有栖川さんは、そんな俺の胸元に自分の顔を埋めながら、やっぱり恥ずかしそうに気持ちをまた教えてくれたのであった。
その耳は真っ赤に染まってしまっており、そんな初々しい反応まで可愛すぎて、俺達はそのまま暫く抱き合い続けたのであった――。
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