第42話 重機VS巨人兵器

重機VS巨人兵器


 先行したドイツの重機はすでに二両が大破していた。

敵の光学兵器の初弾は確かに敵の装甲を利用した盾で防ぐことができた。

反射率の高い敵の装甲は確かに光学兵器を反射し、損傷を減少させることはできた。

だが、全ての熱量を弾くことができたわけではない。相当の熱が盾を溶解させた。

それに気付かなかった一両が第二撃を受けた。その熱が盾をさらに溶解させ、貫いた。

その光はそのまま操舵室付近に直撃。搭乗員は熱に焼かれて即死した。そして、重機は破壊された。それでも殺された彼はその死の直前パンツアーファストの引き金を引いていた。それは敵にとっても死の一撃となった。パンツアーファストの熱でひるんだところを味方が追い打ちをかける。そうして、敵を破壊し、戦果は相討ちという結果となった。

もう一両は運が悪かった。一時に二両の敵と遭遇、一方の攻撃は盾で防いだが、もう一両からの攻撃を防ぐことはできなかった。車両の頭部付近に光が直撃、熱でレンズがひび割れた。視界を奪われた直後に二撃三撃を受けて破壊された。

生き残ったのはエゴンミュラーとカール・エルベスの二名だけになった。

同僚の遺体を放置するのは心が痛むのだが、近代戦では戦場の常になっている。かつてのように、遺体の回収の為に休戦を行うなどということははるか昔の良き習慣に成り果てていた。近代戦の果ては、腐り、蝕まれ、放置される死体の山が残されるだけである。

 敵船内の戦況は不明ながらも、日本軍重機部隊は侵攻を開始した。

進むべき先は、戦闘の跡が示していてくれた。ドイツ軍重機の破壊された二両の車両を確認したが、それ以上に敵の破壊された車両を確認した。そして薬きょうと廃棄されたパンツアーファストの残骸は戦闘の激しさを物語っていた。

六両の日本軍人型重機はおそらくは死んでいるであろうドイツ軍搭乗員に思わず手を合わせていた。それが日本人の心情というものだろうか、仏教という宗教が子供の頃から周囲にあり自然と身についた習慣であった。半島や大陸出身の兵には理解しがたい習慣ではあったが、日本人兵の行為が死者への敬意であることは理解し、それに倣った。

理解しがたい異国の文化を認める、それだけでチームに一体感が生まれる、それが各民族の混成集団だった信濃所属の陸戦隊が実体験で学んだことだった。

そしてその残骸は戦場が極めて近いことを示していた。

金は歩を進め始めた。他の車両も後に続く。進む先は戦闘の跡が教えてくれる。

 エゴンミュラー、カール・エルベス両名はすでに限界を迎えていた。ただでさえ、砂漠戦での負傷は癒えておらず体力も回復していたわけではない。稼働限界とされる一時間もとうに過ぎている。加えて僚機も破壊され、持参した兵器の残りもごくわずかだった。

戦闘を続けろというのは死ねというのと同義だった。二人とも重機に座上したまま、疲労の限界を超え、ほとんど意識を失いかけていた。しかしそれでも敵は休む暇を与えてはくれない。前方から微妙な振動が伝わってくる。敵巨人兵器の歩く音である。

どろどろに溶け、もはやその役目を果たすことはない盾を掲げ、残弾のほとんどない機銃を構える。次の攻撃は防げない、二人はそう確信し死を覚悟した。

敵の姿が見えた。二人はありったけの弾丸を連射した。チュンチュンと固い金属を叩く音が響く。が、敵を屠るには威力が少なすぎた。すぐに弾は切れ、敵は反撃に転じた。

光学兵器が二人の車両に狙いをつける。途端に銃口が発光し、光線が重機に向けて放たれた。だが、その光は車両を貫くことはなかった。敵の攻撃が放たれる寸前、二人の車両は倒れこんだのだ。二人とも、疲労で気絶したのだ。

だが、その隙を敵は逃さない。光学兵器を再び二人に向ける。そしてその光が放たれる瞬間、敵は後ろに吹き飛んだ。その敵を吹き飛ばしたのは日本軍重機の銃撃だった。

三両の重機が一斉に銃撃したのだ。装甲は貫けずとも、その打撃力は敵を吹き飛ばすには十分以上だった。そしてそこへ走りこんだのは帯刀の乗る車両だった。

ヒヒイロカネ製軍刀を逆手に持ち首部分へ突き刺し、捩じる。あっさりとケーブルやアッシー部品を切り裂き、首は落ちた。機能停止。日本軍重機部隊はその初戦を勝利で飾った。

金は降車し、ドイツ軍重機の操舵室ハッチを開けた。その間にも僚機は警戒を緩めず周囲に目を配る。金は二人を車両から引っ張り出した。死んではいないが、相当衰弱していることははっきりわかった。この二人はもう使えない、金はそう判断した。

かといって治療をしている暇もない。万が一にも救助が来ることを願って二人の体を重機の陰に隠した。体を引きずる際にもうめき声をあげるだけで目を覚ますことはなかった。

これが重機に乗りすぎたものの末路だ。金は訓練中に過労で死亡した部下のことを思い出していた。戦わずして、疲労による自滅。決して他人ごとではない現実が目の前にある。

できれば、この二人からできるならば情報を引き出したかった。搭乗限界の極度に短い重機を有効に使うためにも、得られる情報はなんでも欲しかった。しかし二人が虫の息のこの状況ではとても聞き出すことは不可能だった。やむを得ず部隊は前進を開始した。進む先は先行したドイツ軍がそれらしきものを残してくれている。それに従って進む。そして、前方をこちらに向かってやってくる人の姿をレンズがとらえた。その姿はドイツ兵の軍服を着ているように見えた。あちらもこちらの存在に気付いたようだ。何かを必死に呼びかけているように見えた。金は外部マイクの音量を上げた。ドイツ語のようであった。先行したドイツ軍で間違いないようであった。近づいて停車させる。

一方ドイツ軍部隊も日本軍重機を見て違和感を感じているようだった。

基本的にはドイツ軍のそれも日本軍のそれも同じ設計ではあったが、若干の仕様の差が原因のようだった。ドイツ軍のそれを見慣れたものには特殊兵装の日本刀が異様に見えたのだ。

しかし、ドイツ兵の出現は日本軍にとっては渡りに船だった。金は再び車両を降り、ドイツ兵と接触した。残念ながらドイツ語を話せるものは彼しかいなかったのである。見慣れぬ車両に戸惑いを見せた彼らも、降りてきた軍人がドイツ語を話すことでその警戒を解くことができた。共通の言葉を話せ、コミュニケーションをとれるということは極めて重要なのだ。

どんな戦場においても、補給と休憩が必要だ。それは今しかなかった。ドイツ兵から情報を聞き出す間に、降車し、休憩と食事をとる。食事と言っても水とおにぎりだけである。

疲れを癒すには絶対に食事は必要だ。各員はそれをほおばるだけではなく、ドイツ兵にも分け与える。一人の採る分は減るが同じ戦場で戦う者同士、自分たちだけが良ければいい、というわけにはいかない。平等性、相手への気遣いが連携をより強めることになるのだ。

おにぎりの具は山椒の佃煮だった。日本人兵は喜んで食べているが、ドイツ兵には衝撃だったようだ。ただでさえ米を食べなれない彼らに、山椒の舌がしびれるような刺激は驚くべきものだったようだ。顔をしかめたり、驚いたりするものばかりだった。無理もない話である。今では慣れてしまったが、初めて山椒を食べたときは金ら半島や大陸出身の兵は、毒を食らわされたのかと思い、激怒したものである。そのことを思い出し緊迫した状況にもかかわらず金は声を出して笑ってしまった。つられて他の兵やドイツ兵も笑いを見せた。

この一瞬の笑いによる緊張の解放がこの後の行動にどれほどの好影響をもたらすか、はかり知ることはできなかった。わずかの食事と緊張の緩和ですぐのすぐに体力が回復するわけではない。だが、精神力は回復する。むしろ増大することすらある。今がそれだった。友軍との遭遇、そして戦うべき戦場の情報が得られたことによる目的の確立、それも彼らに力が湧いたひとつの理由だった。

金はドイツ兵に、倒れているドイツ重機搭乗兵の介護を依頼し、進撃を開始した。

先ほどよりも進む歩が軽く感じる。目的の確立、緊張の緩和、食料の補給が士気を向上させたのだ。そして目的地に日本軍重機は到着した。重機を待っていたドイツ兵はやはり驚いた。

友軍の到着を当然のことながら予想していたが、やってきたのは日本軍である。当然のことながらそこで疑惑と誤解が生まれる。疑い深い者はこの巨大な宇宙船が日本軍の陰謀だと言い出したほどである。だがこの部隊の指揮官はプリュムである。何が起きたのかを瞬時に察していた。

「我が軍の重機は?」

金もその一言でプリュムが成り行きを悟っていることを察した。故に事の成り行きを説明するのは簡単だった。それを案内した斥候のドイツ兵が補足する。

しかし問題はこれからだ。今まであったこともなく、言語の違いもある、意思疎通の難しい部隊が連携して戦わなければならないのである。当然複雑な作戦などできようはずもない。せいぜいが援護と攻撃の役割を振り分ける程度である。

日本軍重機が敵巨人兵器を引き付け、その間にドイツ兵が機関部に侵入、破壊する。

日本軍にとっても巨人兵器同士の交戦は初めてである。果たして勝てるのかどうか見当もつかない。ただ一つ言えることは「勝たなければいけない」ということだけである。先に交戦したドイツからの情報で敵の倒し方は想像がついている。だが、日本軍にはパンツアーファストのような高熱を発する大火力の兵器はない。そして、狭い艦内である。重機の最大の利点である、機動力の高さを十分に生かしたロングレンジからの攻撃はできない。

故にもう一つの利点、旋回半径の小ささを生かして接近戦に持ち込むしかない。

このことは信濃を出撃する前から想定していたことではある。

三両の重機が銃撃による援護を仕掛け、残りの三両が軍刀による接近戦で敵を屠る。

帯刀土門、宮本晴明、迫水半次郎、三名の日本人兵が接近戦を担当し、金他二名の満洲国出身の兵が火器を使用する。まずは門番代わりに出入り口を固める敵巨人兵器を破壊し、扉をこじ開ける。そこから生身のドイツ兵が機関室内部に侵入、破壊工作を担当する。

そのあとは、迫りくる敵を随時駆逐する。そういう作戦である。その段取りを金とプリュムが簡単に取り決め、即座に実行に移す。重機に搭乗していられる時間は短いのだ。無駄な時間は過ごせない。

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