第2話

 すると、彼女の小さな口が僅かに開き、静かに息を吸う音と共に、胸部がゆっくりと上下した。なんて細かい演出なんだ!


 俺がなんとも形容しがたい背徳感に震える前で、メイドロボットは目を開いた。


 くりくりの目がきらりと光り、俺と視線を合わせる。


「おはようございます。あなたがご主人様ですか?」


 流暢なイタリア語。澄み渡る声で、彼女は言った。


 機械的な濁りの一切ない声に俺はまたもドキッとした。


「ええと、うん。よろしく」


 俺はどもりながらヘルメットを外して顔を見せ、片手を差し出して彼女が立ち上がるのを手伝う。


「ご奉仕専用ロボット、アニータです。誠意を込めて、ご奉仕させて頂きます」


 メイドロボットはアニータと名乗り、ロングスカートの裾を少し摘まんで、【カーテシー】と呼ばれる慎ましいお辞儀をした。


 うーん、可愛い。


「ご主人様のお名前を伺ってもよろしいですか?」


「うん。名前は――」


 あれ? 名前が、出てこない。


「まぁその、平凡なやつだよ」


 仕方なくそう答えた。


「ヘイボン様ですね? ヘイボン様!」


「えっ?」


 気絶しそうなくらい可愛い笑顔で抱き着かれた。


 俺の名前、ヘイボンで覚えられたらしいけど、まぁいいか。


「ところでヘイボン様、ここはどこですか?」


 と、周囲を見渡すアニータの身長は一五〇センチ台。俺と頭一つ分の差。この身長差がまた絶妙に良い。


「ここは、その、俺にもよくわからないんだよね」


 さてどう説明したものか。

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