×××話 生誕祝辞その5
幾つも拵える予定もなく、《人柱臥処》や龍体用の《冥窟》のような完璧なそれである必要もないということで、ルーウィーシャニトは早々にかいつまんだ要点だけを伝授する方針を固めた。
そうでなくとも、ユヴォーシュの魔術に対する理解は初歩的なところで止まっているのだ。学院で基礎理論を学んだ程度の男がよくもまあ《冥窟》を造りたいなどと大口を叩いたものだと呆れるより先に感心すらしてしまうほど。これで彼が《信業遣い》───それも《真なる異端》でなければ、寝言を抜かすなと追い返す一択だったろう。
《冥窟》を維持する程度の無茶ならば、彼はやらかすだろう。それでどうにかしたとして、そこまではルーウィーシャニトの管轄外だ。
そういうのは彼ともっと近しい間柄に任せるべきだろう。
「───そういえば、貴様、一人だな」
「なんだ藪から棒に」
《冥窟》の核について教えている最中のことだった。ふと気になったルーウィーシャニトの呟きに、ユヴォーシュは一瞬驚きはしたものの、
「ヒウィラなら今は《魔界》だよ。野暮用があるってんでな、一人で行ってる。……『貴方が付いていくと余計な騒ぎになるから』ってさ」
「それは道理だな」
しょげるユヴォーシュには悪いが《悪精》の見立ては正しかろう、とルーウィーシャニトは思う。ユヴォーシュが首を突っ込めばそれだけで大事になるし、現にこうして一人残った《人界》で《人柱臥処》に凸してきているのだから懸念は現実のものとなったと言える。願わくば目を離さないでしっかり手綱を握っていて欲しかったが。
それともう一人、仮面の少女の同行者が以前はいたように思うが───彼が口に出さないならば踏み込むのは止すとする。五年前の決戦の時点で姿が見えなかったと聞いているし、今さら糺すことでもない。
「ヒウィラがもうすぐ誕生日なんでな、落ち着く場所でもプレゼントできりゃあと思ってたんだ。ちょうどよかった」
「──────」
土足でここに踏み込んできて、ズケズケと自分の用事を済ませる人間はそうはいない。
「……ニーオを討ったのは貴様だったな、ユヴォーシュ」
「……なんだよ、唐突に」
「私の中では繋がっている話だ。答えよ」
触れればうずく古傷のような話題。掘り返せばいまだに苦みが残ると分かっているけれど、そこで怒れるほどには彼も強く出られる話題ではない。ひとしきり嫌そうな顔をしてみせたあと、絞り出すように、
「そうだよ、俺があいつを斬った。《枯界》で、俺とあいつしかいない場でのことだ。……何でそのことを今になって訊ねるんだ。何が知りたい」
「そう身構えるな、責め立てようというのではない。問いたいのは一つだけだ。───ニーオは、最期に何か言い遺したりしたか」
彼女の計画は破綻した。夢は破れ、目論見は潰え、騒ぎを起こしただけで結局何一つ掴むことはないまま、無念のうちに生涯を終えたのなら、泣き言の一つでも告げたのだろうか。彼女を一番よく知っていて、その最期を一番近くで見届けた彼なら、きっと嘘はつかないだろう。
彼女の結末を知らなければ、彼女を思い出にすることもできない。宙ぶらりんなままで抱えているには、いい加減疲れたのだ。
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