第 三 章 終わりなき怨舞曲
第八話 アダム・アームを狙う者達
アダムを狙う者達
二〇一〇年十二月中旬、八神慎治は記憶喪失のまま家族に連れられオマーンより帰国した。しかし、記憶喪失による彼の心の不和が表われ、記憶が戻るまで家族との距離を取る事になった様です。身元を引き受けたのは済世会の医師、調川愁でした。彼と一緒に生活を共にする事になった八神慎治青年。
年が代わった二月の頃、事件は起きた。八神慎治拉致未遂事件。私がそれを知ったのは二月の終わりです。起こった場所は北海道。私が日本全国、全世界の事象を絶え間なく監視するなど不可能。
故に情報が遅れて私に届いたのは仕方がない事だった。道警では犯人等を逮捕出来たが、どうして、慎治青年を狙ったのか、その目的を頑なに答えないと云うのが私に届けられた近況。
八神慎治拉致未遂の用件が書かれた電子文を完全削除すると、私がするべき事を考える。答えは簡単でした。彼が襲われた理由を独自に調査すると云う事。私の嗅覚(かん)がアダム・アームと何かしら繋がりがあると訴えたからだ。
それから三週間後、調査はおおむね良好。彼が拉致されようとした理由、それを企てた組織が判明し、撲滅を開始する。
八神慎治を狙った組織。まさかと疑わざる事、憚りだが国家機関の防衛省の技術研究本部兵装研究開発課。その所属の一人の人物の独断行動・・・、だけではない。複数の合意で実行された事が判明した。
その目的は?藤原医研のアダム・アーム研究がどのようなものであれ一度その情報が漏洩してしまうとその情報の流れを完全に止める事は出来ない。更に一般開示されている物ではない為、伝い重なるたびに内容に事実以外が加わり、本来の物とは掛け離れた話になってしまう事もある。
兵装研究開発課の一部が入手した情報はこうだ。八神皇女と言いう医者はアームという人体機能を飛躍的に高める事が簡単に出来る研究を密かに行っていると、彼女に言う事を聞かせるには、彼女の性格を利用する事。息子に対して相当甘い。それを利用するために息子、慎治を拉致すればよい、と非常に安易な発想。とても防衛省の技官が考えた物と思えないほど浅はかだった。
彼が母親の監視下から遠く離れた地へ赴いた時が絶好の好機と見て、拉致を決行したと云うのです。たまたま慎治氏と一緒に居た方が、その窮地を脱し、彼は魔の手から免れたのですが、話しが表立てしなかったのは相手が同じ国の組織だったからそのような事を明るみに出来る筈もなかったのです。そして、彼を拉致しようとした事にお咎めなしで流されてしまっているようでした。
でも、私は違います。詩乃さんから生まれるアダム・アーム研究結果を、仮令国家の大儀だとしても、私利私欲だとしても兵器の為に使おうなど赦しはしません。
私は、私が今まで広げてきました人脈を用い次の様な事を行った。
一つ、八神慎治を襲った者達が命令した側の意図を知っていて行動していたか。
二つ、兵装研究開発課内のどの人物らが計画したか。
一つ目に当たる人物たちへは内容を知っていた場合、制裁対象へ。そうでなければ危害を一切加えない。
二つ目の人物らには社会的制裁。更に何処からアームの情報を手に入れたのかその流れを入手し、その情報源、病巣を絶つ事。
二〇一一年四月に入ると欲しかった情報が滞りなく揃っていた。
一の方はただ、命令されただけで、何故、八神慎治氏を拉致しなければならないのかその詳細は聞かされていなかった。故に命令系統がなくなればもう何もしないだろうと考えそちら側へ行動を起こさなかった。
兵装研究開発課の方、関係者は六人。その者等の名前をここで連ねても意味がない。故語る事はしません。家族持ち、特にお子様等がおられる方はその子供達へ心の傷を負わせない様に注意し、社会的制裁を本人に加え、独りの者は容赦しなかった。更にこの世から抹消した訳ではないので制裁した者等が外部の物を使って再び、アダム・アームに関わらない様に、それに協力しない様に脅しをかけました。
彼等の内三人が得た間違った情報入手元の特定も出来、その対処も講じる。ただ国内の事ではなかった為にそう安易に事が運びそうではありませんでした。
二〇一一年五月三十日、月曜日。三十一日、火曜日。連日の事。
私は自身の下した判断の甘さに唇をかんだ。報せは当日直ぐに私のもとへ知らされた。それは藤原洸大氏の愛孫の藤原翔子氏が事故に見舞われたとの事だ。その場にはあの八神慎治氏も、同席していまして、その彼が彼女を危機から救ったそうです。
翌日には彼の姉、八神佐京氏もが襲われた。
早速、知り合いの処へ調査を依頼して、そちらへ向かわせました。全体が見えるのに大凡、十日。前回、八神慎治氏を拉致しようとした兵装研究開発課、制裁済み一人が私の調査した情報とは離れた与り知らぬ人脈を使い藤原洸大氏に直接脅しをかけたようです。
『続けている研究を渡せ。そうしなければ孫の命は無い』と。
昭和の大戦を生き抜いた洸大氏はそのような脅しには消して屈する様な方ではない。案の定、彼はそれに応じる事はなく、苛立った相手が言葉通りに強硬手段に訴えた形になる。流石に今は一人になってしまった孫へ危害が加えられたのだ、洸大氏が黙っている筈がない。しかし、相手が国の機関である以上、彼も手をこまねいているのが現状でした。
私は私の素性を隠し、直接洸大氏へ取り次ぎ報復代行を買いました。だが、彼は直ぐに承諾を呉れませんでした。交渉の末、源の縁の者だと言葉に出すと彼は考えに耽、頭を縦に振ってくれる。
「お主が源の縁の物なら安心でき様。だが、けして、源の名を貶(おと)すような真似はせんでくれよじゃ・・・」
「ええ、心得ております」
「本来守るべき、源家にまた、貸しを作ってしまうのじゃな、ワシは・・・」
「そのような事はないと思いますが、洸大氏は妹・・・、いや、もう、亡くなられてしまいました。太陽氏の妹君、確か華月氏に色々と手を貸してくれているらしいではないですか・・・」
「そのような、つうつうの仲での事を知っているとは、お主本、当に源の縁の者なのじゃな・・・」
「では、これから策を講じますので私はこれにて引き取りをさせていただくとします」
洸大氏に一礼をして、彼の部屋から出る私。そして、既に私が居なくなってしまった部屋で彼は、
「太陽殿よ、名を偽って、姿、顔を変えて、お主は何とするのじゃ・・・」と呟いた。
私が実行したのはとても簡単な事です。主犯副犯、今回の件に加担した全ての者等に抹殺。
私は首謀者へ不破の剣先を向けていた。
「たっ、たす」の命乞いをする次の言葉が出てくる事はない。
「命乞いなど見苦しいい・・・、己の行いを恥じ、あの世で悔い改めよ。改心した処で貴方が救われる事などありはしないと思うがな・・・」
私は非情なほど冷徹に侮蔑した眼差しを向けながらその様に言い切っていました。
瞬く速さでその者の喉笛へ刀のふくらをめり込ませ、首の裏を突き抜ける薄皮一枚寸前で止め、刀を半回転以上させて、脊髄神経を破壊した。刃をそのまま抜けば、返り血を浴びる事は知れた事。
絶命した相手の突き刺した部分、傷口に布を当て、血飛沫が出ない様にして刀を抜いた。
刀の先に付着してしまった相手の血を、忌み物を見て触れる事を嫌う様に眉を顰める顔を造りながら、別の布で拭う。曇りが無くなるまで丹念に磨き、最後に油紙で刀身を挟み、ハマチからフクラまで嘗めさせた。
一閃、中空を滑らせた後に納刀し、刀袋の中へとしまった。遺体を運ぶのに数人の手を借りたが、その主犯のみ私自身で遺体の事後処理を行った。
電磁波焼却を用い、骨の形すら残さなかった。電磁波焼却炉は医療で汚染された物質や感染性医療廃棄物を安全に焼却する目的で使われる物で、私の会社で開発販売をしているのでそれを用意するのは難しくはなかった。
アダム・アームに手を出そうとした者の末路の始終を動画として残し、既に前回の事で処分済みの者達へ、二度同じ事をすれば貴方方もこうなると云う事を判らせるために突き付けました。それを示す事は大きな抑止力となると思ったからです。これで以降、藤原翔子氏、並びに藤原家に手を出そうとする者はいないだろう。
次に八神佐京が襲われたのは兵装研究開発課とは全く別の処で国家機関ではなかった。日本で表立った組織は一つもない、その様な処が事件に絡んでいた。それは傭兵を運営する会社。彼女は襲われたと云うよりも慎治氏の時の様に拉致未遂で彼女が母の意志を継ぐ、次世代の人体兵器研究をしていると云うまた誤った情報で狙われる始末だ。
民間組織など政府を相手にするよりもよほど楽でした。用心護衛や、民間人を犯罪から警護する会社ならあって、当然だと思うがこの日本に傭兵会社など無用。政府が公認しない限り、その存在を認めない。存在が抹消された処で誰も気にする事もないだろう。私のこのような考え方は一方的で独善的であるのは重々承知の上だ。誰に咎められようと、私は私の意志を通す。仮令、焦がれる詩乃さんが私のこの行動を諫めるとしても・・・。
しかし、なぜ、こうも多くの処が間違った情報でアダム・アーム研究を己の者にしようとしているのだろうか?
私が組織だって行動しても、全てに対処できる訳ではない。それに未だに霧生夫妻は見つからず安否が判らないままでした。
それでも私は聖櫃の中の詩乃さんが望んだ事だけが続く様にするためにも、悪用される恐れのある種を狩り潰す事を辞めはしない。それが仮令、彼女の望んだ私自身の生き方ではなく執行者としての罪を重ね続けても私は停まる事はい。
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