第12話 ランチタイムは優雅に

 昼休みはいつもの4人にアンナを加えて5人で机を合わせた。


ミクリンはコンビニ弁当、ニッチは総菜パンとパックジュース。


カッチンはチマチマとしたお弁当箱を出す。


アンナはおずおずと、サンドイッチが詰まったお洒落な竹籠製のランチボックスを出してきた。


みんなの目がランチボックスに集中する。


「高級そうなランチボックスだねぇー」


「赤毛のアンみたいだよー(泣)」


「おしゃピクじゃあねーし」


「ぼ、僕一人じゃあ食べられそうもないからみんなもどうぞ」


「オッ、サンキュー」


「いただきます」


「ありがとう(泣)」


「イタダキー」


「リオはお弁当なのかなあ」


アンナの問いかけにウチは不敵に笑うと、2段重ねの手作りお弁当箱をバンと机に置く。


1段目はおにぎりが3個と昨日の夜の残りの竹輪の天ぷらと唐揚げ。


2段目はウチの渾身の力作。


一口ハンバーグが8個だ。


「ナニ、アンドリンの弁当。茶色すぎだろう」


「莉凰のベントー、無いわー、一段全部ハンバーグなんて。引くわー。」


「リオちゃん、野菜取らないと死んじゃうよー(泣)」


「………キュアピーチ」


「ナニよ。ウチの女子力総動員の一口ハンバーグに文句でもあるわけ」


「アンドリン、先週もずっとハンバーグだったよねえ」


「違うし、火曜日はスコッチエッグだったし、金曜日は手作りハンバーガーだったし」


「結局、基本はハンバーグだと思うよー(泣)」


「まあ良いじゃん、莉凰のハンバーグは美味いし」


そう言うとニッチがウチのハンバーグをヒョイとつまんで口に放り込んだ。


「オッ、女子力はともかく今日も美味しいじゃん」


「誰が食えって言ったのよ。まあ仕方ない、皆も食べてみい」


ウチはほかの3人にもハンバーグを薦める。


「アンドリンはハンバーグだけは上手だねえ」


「だけって何。ゼンゼン誉め言葉になってないぞ」


「冷めててもおいしいよー(泣)」


「泣きながら食べないでー」


「……らぶ」


「桃園じゃねーから」


「この一口ハンバーグ良いわぁ。莉凰、作り方教えてよ。うちの店の突き出しで使おうかなあ」


「オッケー、週末にでも教えに行くよ」


「じゃあお願いするよ、ハンバーグ師匠」


「ハンバ――グ。って誰が師匠だよ」


定番の乗り突込みだけは入れておく。




 カッチンと二人でお弁当箱を洗いに行くとミクリンがついてきた。


お弁当箱を洗っているウチにミクリンが訊ねてくる。


「アンドリン、急に予習だとか龍崎のノートとかどうしたの?」


「アンナのお母さんがどうもきつい人見たいで、成績が悪いってプレッシャーをかけられて引きこもっちゃったみたい」


「それで龍崎さんとリオちゃんが行ったんだね(泣)」


「アンナはウチに気を許してくれたんだけど、アンナのお母さんには覚えが悪いみたいでね」


「それで龍崎のノートで成績を上げようって事ね。そういう事なら協力するよ」


「役に立たないけど私も手伝うから(泣)」


「いや、いや、いや。学年四位のカッチンがメインでしょう」


「そうだよ、カッチン。青山君や龍崎を抑えてクラストップなんだから」


「エーン。ゴメンナサーイ(泣)」


「「だからなんで謝るの」」


放課後、事業が終わるとすぐに龍崎がウチの席にやってきた。


「きょうのノート。さっさと写しちゃって。私部活が有るから」


「アンタ部活もやってたっけ?」


ウチは龍崎のノートの写メを取りながら訊ねた。


「そうじゃないんだけど、軽音部に用があるんだよね。文化祭に西爪を引っ張り出そうかなって思ってる。彼、軽音部員だし音楽バカだし」


「そんなので学校に出てくるかなあ?」


「あんたのおかげで岡部さん出てきたじゃない。可能性はあるよ」


「ご苦労様だね。頑張ってとだけ言っとくよ」


「あんたの言葉には、一欠けらも心が籠ってないわねえ」


「イン」


「あんたは高木ひと〇〇か!」


「いい突っ込み。特に〇が」


「ノート返せ!」


「もう全部写メとったしー」


龍崎のノートの写メミクリンに見せると


「オー、龍崎ノートゲットか。では早速中間対策をすすめましょうかねえ」


「ニッチ、カッチン、アンナ。ミクリンが中間対策だってさ」


「授業終わったのに勉強するのかよー。アーシはパス。莉凰、急にお利口ぶってんじゃないよ」


ニッチはそう言うと鞄を持ってさっさと帰っていった。


一時間ほど四人でお互いのノートを確認しながら授業の復習をした。


人見知りが強いカッチンはともかくアンナとミクリンは結構打ち解けたようだ。


「カッチンのノートはすげーわあ。なんで説明飛ばして答えが出るのよ」


「だからこの方程式をカッチンは開かずに頭の中で計算するからさ。ここにこの計算式を入れて開いたらわかるだろう」


「御厨さんは説明がすごくうまくてよく分かったよ。僕はぜんせんわからなかったもの」


「やっぱり私は役に立たないよー(泣)」


「カッチンが全部解いてくれるから、私が解法を導けるんだよ。カッチンの回答が無ければ問題自体解けないから」


そういうミクリンもクラスで五位だ。


割とプライドが高くて一匹オオカミ的なミクリンは、入学して学年で二十位以内に入れなかった事が地味にショックだったようだ。


カッチンと龍崎のノートに刺激を受けたようで、ウチらとの勉強に乗り気を見せ始めた。


「カッチンとミクリンがいれば完璧だよ。頼りにしてるからね」


そうやって一時間余り勉強をしてウチらは教室を出た。

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