第8話満たし満たされ、溺れる

カーテンの隙間から月明かりが差して、暗闇の室内に淡い光りが満ちる。月明かりで美彩の頬が紅潮し恍惚とした表情かおが見え、興奮が抑えられない。

彼女の汗ばんだ身体の柔らかい感触に艶かしい喘ぎ声と恍惚とした表情が重なり、高まっていく快感にどうにかなりそうになっていた。


一度味わえば、ほかのおんなでは欲求なんて満たされはしない。

以前、男子と交際したが相手そいつは気持ち悪かった。容姿が整っているだけの、よく見掛ける異性と大差ない偽物ガラクタに過ぎず、すぐ別れた。

世の女性はよくもあんなので快感を得られるものだな、呆れたほどだった。

私に快感を与えてくれるのは美彩だけだ。



彼女との出逢いは——最悪だった。

紆余曲折あり、彼女を振り向かせることに成功して——現在いまに至る。


彼女に出逢わなければ、今頃は自暴自棄に陥り、周囲から憐れまれた視線に晒されていただろう。

彼女には感謝しかない。


渋々受け入れられたけれど、もう彼女はこの世界に足を突っ込み、堕ちた。


彼女を失えば、退屈で苦痛なあの日々に逆戻りだ。

それだけは避けたい。


なんとか彼女を繋ぎ止めたい。解けることのない糸で繋ぎ止めておきたい。



果てた私たちはぐったりとして、ベッドで天井を見つめる。

「今日はいつもより激しかったけど、そんな溜まってた?ストレスとか」

「そうでもない。美彩を気持ちよくさせようって思っただけ、そんだけだよ」

「そぉ?まあいいや、そういうことにしといてあげる。そろそろ流さない?」

「もう一回だけしようよ。優しいのにするから、ソフトなのにするから。ダメ?」

「えぇーもう疲れたってー。明日ならいいけど」

「諦めるよ、今日のところは……」

ふて腐れた声で返し、ベッドから起き上がり、浴室に向かった。

ちょっとなんで先に行くのーっ、と文句を言いながら後をついてくる美彩。



彼女の体温ぬくもりを知ったのは、高2の夏休みだった。


それ以前はキスまでだった。

流石に高校を卒業してから身体を重ねた。それだけは誤解されないように言っておく。


私と美彩は満たし満たされ、溺れていく。



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