白いジャングルにライガーは吼える

池澤 聖

第1話 プロローグ 闇に光る眼

 午前二時過ぎ。加納みさきは深夜の渋谷のオフィス街を少しふらつきながら歩いていた。今日の合コンは昼間の仕事中から楽しみにしていたのに、集まった男性連中はいまいちパッとしないメンバーだった。結局、ワインをガブ飲みしただけで成果なし。あとは女性ばかりのカラオケ二次会で、気が付いたら終電の時間は過ぎていた。みさきは諦めてアパートのある中目黒に向けて歩き始めた。


 「あぁー、もう、時間の無駄だったなぁ」

みさきのぼやきとカツカツという靴の音が月の光を浴びて白く光るビルの壁に反響して、人気のなくなった通りに響いている。

 その姿をビルの影から見つめる二つの目。闇に光るその目はすでに獲物をしっかりと捉えている。

「まぁ、明日は仕事も休みだし、久しぶりに昼過ぎまで寝るか」

みさきは独り言をつぶやきながら歩いていく。カツカツカツ。また靴音がビルに響く。


 獲物が目の前を通りすぎた瞬間、二つの目は音も立てず獲物の背中に飛びかかった。

「何?」

アスファルトに押し倒されて驚くみさきが後ろを振り返ろうとした時、白く輝く長い牙がみさきの首に食い込んだ。

「キャー」という声が一瞬白いビル街に響いたが、『グキッ』という首の骨が折れる音とともにすぐに静寂を取り戻した。そして、獲物をじっくりと味わうために白いビルの影にひきずる『ズズズ、ズズズ・・』という音がしばらく続く。音はビルの裏に回り、『ゴツゴツ』と外側の非常階段を登っていく音に変わる。二つの目が非常階段二階の踊り場に達したところで音が止み、また静かな夜が戻ってきた。

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