「美味しいですね」2021年6月15日昼

新居の手続きを終え、2人でパピコを分けた。

何でパピコだったのかは、分けたかったからって松井は言ってた。

パピコを分ける相手は、松井にいたのだろうか?

1人で逃亡してると支店長から聞いた。

いかにも怪しい会社にいた松井は、会社のことを知ってるはずなのに家族を捨てている。俺とは逆で、家族には恵まれなかったかもしれない。


あーだこーだ言いながら稲宮のアパートに2人で戻った。

弁護士に相談しに行くにはまだ時間があるため、ご飯にすることにした。

急遽、予定を早めたので冷蔵庫の中身が余ってる。

松井さんに食べてもらって少しでも量を減らそうと誘ったら、ぜひと言われた。

時間の都合上で晩御飯の直前や直後に色々打ち合わせしてたので、松井さんが俺のアパートに来た時に台所から旨そうな匂いがしてて気にはなってたみたい。




メニューは、、、

肉団子と玉ねぎのケチャップ煮。

肉団子は豚こま切れ肉をキッチンハサミで細かく切り、片栗粉で固めて、弱火で加熱して、蓋をして蒸し焼きした。出てきた肉汁に玉ねぎをからめて、ケチャップとポン酢等で味をつけた。


卵の袋煮。

油揚げに生卵を入れて、出汁入り砂糖醬油で甘辛く煮た。


しんなりナスのポン酢がけ。

ナスを薄切りにして、耐熱皿に並べ、レンチンしてしんなりさせ、ポン酢をかけた。




「いただきます」『いただきます!』


俺が作った料理たちを見て松井さんの目が輝いてるのは、気のせいだろうか?

自分としては食材処分に付き合わせてしまって、申し訳ないのだけど、、、

普通なのだけど、何も凝ったことはしてないよ?

松井さんがご飯をおかわりいいですかと聞いてきたので、いいですよと答えた。

僕って小食なんですって、言ってませんでしたけ?

ご飯にケチャップ煮をかけて、がっついてるんだけど、、、

なぜ?


『ごちそうさまでした』


「あれ?小食って、言ってませんでしたっけ?」


『如月さんの作るおかず美味しくて、つい箸が進みました』

『久しぶりですよ、こんな美味しい料理』


「それは良かったです」

「照れますね、、、でも、母さんの料理はさらに旨いですよ」

「自分なんてまだまだですよ」


『十分に美味しかったですよ』

『如月さんが前に言っていた意味が分かりました』


「え、何を言ってましたっけ?」


『外食が苦手で自分で作る方が旨いから作ってるって、言ってましたよ』


「たしかに、言いましたね」


実家の味は、薄味で素材の味を活かした料理。

外食の味は、調味料を食ってる気分になるから苦手。


ふと振り返り、思う。

松井はいつも1人で味の濃い冷めてしまった弁当とか、食べていたのだろうか?

温かい薄味の家庭の味を食べたのは、久しぶりだったのかもしれない。




この出来事が今後の俺たちの運命を変えたのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る