エピソード6 事後考察


 「ふぅ……全て片付いたな」


 周囲に活動しているアーミーシェルが居ないのを確認し額の汗をぬぐい深い溜息を吐くアキマサ。

 右手には物々しい槍が握られている。

 これはネヴュラレイで彼が所持しているSレア装備【メテオクラッシャー】と呼ばれる武器だ。

 攻撃力の高さもあるが、武器特有の付加特性に【貫通】があり、特に今回のアーミーシェルの様な固い装甲を持っている敵に有効な装備である。

 戦いの途中でフラッグポールから持ち替えたのだ。

 身体全体も未来の素材風な全身スーツに胸や腕、脚などに防具アーマーが装着されている。

 これも勿論ネヴュラレイの装備だ。


「いつもゲームでやっている事なのにこれは緊張感がダンチだな」


 ケンジも巨大な盾を軽々と持ちながらこちらへやって来た。


「それはきっとこのリアルさがそう思わせるんだろう、いつからアナザーリアリティはZ指定になったんだ?」


 アキマサが足元に目をやると、切断され転がる人の右腕が転がっていた。

 ご丁寧に断面から骨と肉が見え、血も流れ出ている。

 この手の残虐表現が苦手な人間が見たら即座に嘔吐、失神してしまう程のリアリティだ。

 しかもモンスターの死骸なども同様、ネヴュラレイゲーム内ではすぐに消滅してしまうものがいつまでもその場に残っている。


「ううっ……ぐすっ……」


 泣き咽びながらその場で蹲るキャシー。

 無理もない、目の前であんな惨劇が起きてしまったのだから。


「大丈夫? キャシー?」


「ううっ……私早くお家に帰りたい……」


 シンディが声を掛けても聞こえていないかのようにキャシーは一人膝を抱えるのだった。


「なあ、思ったんだがここでアバターが殺されてしまった人々はどういった扱いになるんだろうな?」


「……僕もそれを考えていたよ、とても嫌な予感がする」


 アキマサの問い掛けにコウは口元に手を当て眉間に皺を寄せる。


「通常時ならラウンジでアバターがロストすることは有り得ない、しかし今のアナザーリアリティはどう考えても普通じゃない、もしかするとだけど今殺されてしまったアバターのプレーヤーは本当に死んでしまったのではないだろうか」


「何だって!? それじゃあ俺たちはこの電脳空間に閉じ込められたままで外にも出られずモンスターに食い殺されるって事か!?」


 ケンジが興奮してコウの胸倉を掴む。

 そして何度も前後に揺さぶった。


「放せよケンジ、コウはあくまで可能性の話しをしたんだ、本当にそうなのかどうかは今の俺たちには確認しようがない」


 アキマサが二人の間に割って入った。

 ケンジはハッと我に返りコウから手を放す。


「そうだな、悪かった……」


「いいや、こんな状況なのに僕も空気を読まなさ過ぎたよ」


 その後誰もしゃべらなくなり暫しの沈黙が場を支配した。

 一様にみんな暗い表情をしている。


「……意気消沈している所悪い知らせよ、メッセージを運営に送っても何の反応も無いわ」


 沈黙を最初に破ったのはミカだった。

 そして自らの前に浮かぶ空間ディスプレイを指さす。


「ミカさん、それは本当ですか?」


「ええ、一応メンテナンスの進捗なんかの運営のメッセージはこちらに届いているんだけどね」


 クランメンバーが集いミカのディスプレイを覗き込む。


「何々? 『現在の異常事態を収束する為当方は全力で調査を行っていますがアナザーリアリティ自体に外部からのアクセスが拒絶されており復帰が難航しております。

 アナザーリアリティ内部の映像はこちらでも監視可能ですがメッセージはこちらからの一方通行の模様です。

 進捗状況は随時こちらから連絡を入れますので今後も動向に注意してください。』

 だと!? ふざけるな!!」


「落ち着けよケンジ、さっきも言ったが俺たちに出来る事は運営を信じて待つことだけだ、冷静さを失ってバイタルに異常が出たら何が起こるか分からないぞ」


「これが落ち着いていられるかよ!! こうして居る今だって何が起こるかわかったもんじゃねぇんだ!!」


 アキマサとケンジが取っ組み合いを開始した。


「ちょっとやめなさいよ!! そんなに暴れたいなら私が相手になるわよ!?」


「えっ……」


 シンディの言葉に途端に大人しくなる二人。

 先ほどの彼女の鬼神の如き戦いを目の当たりにしている手前、シンディを敵に回したくないと判断したのだろう。


「宜しい、大人しくしてんのよ」


 腰に手を当てふんぞり返るシンディ。


「……何とかこちらから運営と連絡を付ける手段は無いものかな」


 コウが首を捻る。


「それは無理だろう、メッセンジャーは運営のメッセージは受け付けるけどこちらのメッセージは送れないんだから……それともフロアに文字でも書くかい? 内部の映像は監視してるっていうぜ?」


「フロアに文字……それだ!! 冴えてるなアキマサ!!」


「えっ?」


 きょとんとするアキマサをよそにコウは走り出す。


「みんな手伝ってくれ、これからファームエリアへ行く」


 ファームエリアとは広大な農地の再現されたエリアで、人々はそこで牛や羊を飼ったり作物を栽培したりと田舎のスローライフを体感できるという謳い文句のエリアであり、意外に人気があった。


「はぁ? ファームエリアだぁ? そんなとこに行って何しようってんだ?」


「行けば分かるよ、さあ早く!! 」


 コウは言うが早いかファームエリアへ行くゲートへ既に向かっていた。


「コウの事だ、何か考えがあるんだろう、行こうぜ」


「何だか知んねぇけどこうしてグダグダしてても仕方ねぇからな」


 果たしてコウが思いついた事とは何なのか。

 やる気のないケンジを引っ張り、アキマサ達はコウを追いかけるのだった。

 


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