二人目 色欲の悪魔は欲を満たして最後は喰らう その六
アスモデウスの異空間から出てリビングで、グレモリーが淹れてくれた紅茶で苛立ちざわつく心を落ち着かせる。
「落ち着きましたか? 主」
「ああ、少しな」
「これもよろしければ」
と皿に並べられ目の前に置かれたのはクッキー。チョコチップを混ぜ焼き立てのを、一枚口へ運ぶ。サクサク生地は甘さ控えめ、チョコチップの甘さがちょうどいい。
「美味しい」
「口に合ったようで良かったです」
紅茶とクッキーを楽しみその時がくるのを待つ。
そして、日付が変わり翌朝になってようやくアスモデウスが僕を呼ぶ。
「夏目ちゃん。終わったわよ~」
「随分と時間がかかったな」
「うふふ~。あの坊や、人間にしては性欲がある方だったから一晩、搾り取るまで時間がかかったの。もう、抵抗する力なんて残ってないと思うわ~。お姉さんを満たすためにこれでもかっていうくらい、ここに出させてあげたから」
そう言って、自分のお腹を撫でるアスモデウス。別れた時と変わらない姿、むしろ肌が艷やかで潤っているように見える。
部屋へと移動し、中へ入るとベッドの上でぐったりし動かない裸の橋本が転がっていた。
詳しく聞く必要もない。
さっそく始める。
まず橋本に氷水を全身にかけて叩き起こす。
「ブッ……⁉ ゲホッ、ゲホッ……。つ、冷たっ⁉」
「目が覚めたな」
「あ? お、お前……!」
「アスモデウス」
「は~い」
橋本の言葉など聞く耳持たず、アスモデウスに命じる。橋本が今まで行ってきた拷問を、それ以上の苦痛で味わわせる。
最初に用意したのは縄、ではなくワイヤーだ。ただし、普通のワイヤーではなく無数の小さな針がついたこの時のためにアスモデウスに作らせた特注品。
そのワイヤーを使って橋本の裸体を緊縛する。
「なんだよそれ⁉ や、やめろっ! そんな物を使うな! や、やめ……ああああああっ!」
アスモデウスがきつくワイヤーを身体に縛り針が食い込む。その痛みにベッドの上で悶える橋本。シーツに小さな血が付着する。
「まだまだよ。坊や」
「い、痛いっ! た、頼む! これ解いてくれ! 身体中、針が刺さって痛いんだよ!」
「だから?」
「は?」
「だからどうした?」
「だから、って……。お前……! 見て分かんねえのかよ! 血が出てんだぞ! だから、解けって言ってんだよ!」
僕の問いかけに橋本は怒り散らす。椅子に座りテーブルに頬杖をつきながら眺める。
この程度で痛がってるようじゃ、この先の拷問でショック死しかねないな。アスモデウスに言って、ショック死しないよう魔法陣で細工してもらおう。
「アスモデウス」
「何かしら~」
「ショック死させないよう脳みそに細工はできるか?」
「もちろん、できるわよ~。ちょっと待っててね」
橋本の頭に手を乗せ青い魔法陣が浮かび上がる。ものの数秒で、僕の要求通り脳へ細工が完了。
「これでショック死はしないようになったわ~」
「そうか。なら、続けろ」
「お任せを」
アスモデウスが持つワイヤーが引っ張られ、橋本の身体に更に針が深く食い込む。見てる僕でも分かるくらい針が肉へ沈み込み、そこから血が流れシーツに赤い染みを作っていく。
「痛てええっ! やめろ! それ以上、引っ張るな! は、針が食い込んで痛いんだよ!」
「うふふ。もっと、泣き叫んでもいいのよ~」
「ああああああああああああっ!」
「ほら~。もっと、泣いてみなさい~」
「や、やめっ……! いいぃぃいいいぁぁああああああああああああっ!」
アスモデウスは、性欲以外でも恍惚とした顔で痛みつけて興奮しながら楽しむ面もあったのか。腰を振りながら頬を赤くして。
ワイヤーを操るアスモデウスは、強弱をつけ縛り上げ橋本が泣き叫ぶ姿を楽しむ。
次に用意した拷問は、手足を後手で縛り天井から吊るした鎖へ繋ぐ。そして、熱した鞭をアスモデウスが橋本の身体に鞭打つ。
「さあ、次はこれよ~」
「ま、待て! そんな物で打たれた火傷じゃ済まないぞ⁉」
「だからこそ、いいんじゃない。夏目ちゃんは、坊やが苦しみ恐怖し絶望する様を見たいんだから。お姉さんは、坊やがもっと泣き叫ぶ姿が見たいの」
「ふ、ふざけんなっ! なんで、オレがそんな目に遭わなきゃいけないんだよ!」
「それは、坊やが夏目ちゃんの大切な人を傷つけ奪ったからよ~」
「そ、それは……。わ、分かった! オレが悪かったから! 謝る! ごめんなさい! 大磨を虐めて本当に悪かった! だから……」
「お喋りはそこまでよ。坊や」
「――――っ!」
部屋に乾いた音が何度も鳴り響く。橋本の身体のあちこちに赤い線が刻まれていく。
今更、謝って済む話じゃないんだよ。貴様が姉さんにしたこと、僕から奪った罪、その身で味わって死んでいけ!
貴様も、残りの奴らも全員、してきたこと以上のものを味わわせて殺してやる! 誰一人として許さない!
「ああああああああっ! 痛え痛え痛え痛え痛えっ! ごめんなさい! ごめんなさい! 許して! もうやめてくれ! 熱い、痛い! オレの身体壊れる! 死んじゃうから!」
涙、鼻水、涎を垂らし懇願する橋本。その姿に余計、興奮していくアスモデウス。僕は、何も言わずその光景を眺めるだけ。
ベッドのみならず、部屋の壁や天井に血が飛び散っていく。アスモデウスは、僕に飛ばないよう注意しているようだけど。
「ああ~。いいわ、坊や。お姉さん、興奮が止まらないわ~」
「ううぅっ……。もう、許してくれ……。オレが悪かったから……。痛い、痛いよ……」
これで終わりじゃないぞ。貴様は、色んな女性に性的拷問を繰り返していたんだろ? 姉さんにも。緊縛、鞭打ち、水責め、強姦、監禁と。
なら、貴様も同じ拷問を受けるべきだろ。
「アスモデウス。次にいけ」
「は~い」
今度は、縛っていたものを全て外す。橋本はようやく解放されると顔をほころばせる。が、それは思い違いだ。アスモデウスは、空中に丸みを帯びた水の塊を作り出す。
「それじゃあ、いくわよ~」
「へっ? いくって……? うぶっ⁉ ゴボッ」
橋本の髪を掴み、その水の中へ頭を放り込む。
「んがぁっ⁉ あががっ!」
水の中から出ようともがく。酸素を求め手を左右前後に振り乱す。
「あがっ! ゴポッ! ……がはっ! ゲホッ、ゲホッ……。はあぁっ、はあぁっ……! こ、このクソアマ! オレを、殺す気か!」
「あら、まだ元気ね。じゃあ、もう一回」
「ふ、ふざけんなっ! やめ――んぶっ⁉」
また髪を掴んだまま水の中へ頭を突っ込み、引き上げまた突っ込むを繰り返す。繰り返す内に水の中へ突っ込む時間が長くなっていく。逆に、引き上げる時間が短くなり息を吸い込む暇さえ与えなくなる。
水責めも終わりもう一度、ベッドの上に大の字に寝かせる。そこへ、アスモデウスの魔法陣から召喚する。赤黒いワニを。
その赤黒いワニはゆっくりと、橋本の股間へと近づく。ギラつく瞳、一噛みされるだけで噛まれた先が失うと分かる生え揃った牙、体長三メートルの巨大ワニの姿に畏怖させられる。
「じょ、冗談だろ⁉ 待て待て待てっ! そんなのに噛まれたら、オレ死ぬだろ⁉ やめてくれ! 近づけさせるなよ! なんでだ⁉ なんでだよ! オレちゃんと謝っただろ⁉ なのになんで、オレがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!」
うるさい奴だな。
貴様の謝罪などいらないんだよ……! 僕がほしいのは貴様らの死だけだ!
おとなしく、ワニに食い千切られろ!
「やめろっ! やめてくれ! お願いだからやめてくれ!」
ゆっくりと口を開け、男の象徴ともいうべきそれに噛みつきワニ特有の肉体を回転させる。
「いいっ……ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
鮮血が回転の衝撃と共に飛び散りベッドとその周りを赤く染めていく。
これでショック死をしてしまうところを、アスモデウスに頼み脳へ細工を施したお陰で死ぬこともできず、激痛とワニが噛み千切る光景の恐怖と色んな女性に使い込んだ己の象徴を失った絶望を与える。
「いいっ……ううっ……あ、ああぁぁ……」
ワニは、それを食い終わると消えていく。橋本は虚ろな目で天井を見上げ、身体を痙攣させ壊れた玩具のような声しか発さなくなった。
「夏目ちゃん。これでいいのかしら~?」
「ああ。二人目の復讐完了だ」
「じゃあ、お姉さんが魂を喰らってもいいってことね」
アスモデウスは、大の字に寝かされている橋本の下へいきキスをする。そこから靄のようなもの、魂を吸い出す。あとは、死体の処理だが。それはアスモデウスに任せればいいか。二人目の復讐を終えた僕と、性欲も満たし魂も喰らい満足そうなアスモデウスだった。
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