3'''''....


 きっとそうなのだ。私が隆一との花火を楽しんでいて、でも、付き合わなくてもいいとかワガママを願ったりするから、私はこのままなのだ。


 ぼーっとベッドの上で考える。


「そろそろ支度しなくていいの?」とお母さん。


「今行くー」


 髪の毛のセッティングを手伝ってもらえってるときも、同じことを考えてる。今のままって楽しいよなぁ。しかも楽しいことが分かってるんだもんなぁ。でも、なんでだろう。この寂しさは。

 なんだかズルしてる気がするからかな?


「何考えてんの、美桜。ぼーっとしてるわよ」


「え?」


 お母さんが手を止めて、私に問う。こんなの初めてだったんじゃないだろうか。


「ううん。なんでもない」


「あら、そう」


 よく私が考え事してるなんてわかったなぁ。でも初めての機会だ。聞こう。けど、なんて聞こうか。お母さんなら何て言うんだろうか。何度も同じ体験をしてるなんて言っても伝わらないよね。着替えも終わりかけのタイミングで言葉がまとまる。


「あのさ、お母さん」


「ん? 何?」


「もしね、ずっとね。今が楽しいとしてね? ずっと今が続いてほしいって思うのは間違いなのかな?」


「え? どうしたのよ」


「私は今日の花火大会がとても楽しみで、ずっとそれを楽しんでいたいって思うのはよくないことなのかな?」


 お母さんはやれやれといった表情を見せながら、口にする。


「みんなそうじゃない?」


「え?」


「私だっていつもそうよ。あんたの準備手伝ったりしてる時間は楽しいし、お父さんにも健康のままでいてほしいし、みんなそうよ。動きたくないよ」


「そ、そうよね」


「でもね? 今のままだったら、この先にもっと楽しい瞬間があっても、それを味わえないかもしれないよなぁとも思うの。あんたの花嫁姿も今のままじゃ見れないし、お父さんも仕事あるからゆっくり私と過ごせたりはしないし」


 私の浴衣の準備がちょうど終わる。


「だから、美桜。今日だけじゃなくて、明日も楽しみなさい。そんなに学校が嫌なの?」


「違うよ!……でも、ありがとう」


 私はようやく目を覚ます勇気を手にした、はずだ。




「どーした美桜。ぼーっとして」と隆一は私の顔をのぞきこんでくる。


「あ、いやなんでもない」


 彼は、また褒めながらけなしてくる。じきに花火が始まる。これが、二人でこの関係のまま見られる最後の花火だ。私は、そう、確信してる。


 この花火は、今まで見た中で一番美しかった。これが最後だと打ち上がったときに感じたからだろうか。終わりがある方が花火は、きれいなのかもしれない。


「ありがとな。美桜。射的はあれだったけど楽しかったわ」


「お誘いありがとう。なんとか思い出作れたよ」


「俺なんかと来てよかったのか」


 私は大きく息を吸う。ドキドキする。大丈夫、言える。


「どうした? 考え込んで?」


「あんたと来れてよかった」


「え?」


 大きく隆一は目を開く。目と目が合う。だけど!

 いや、やっぱりこれ以上は言えない。隆一の顔が赤い。私もきっとそうだ。


「楽しかったよ。また明日学校でね」


「お、おう。じゃあな」


 隆一はまだ驚いた様子で、手を振る。


 私の夏が終わる。思ってた通りにはいかないけれど、また次こそ息を整えて、挑戦すればいい。


 でも、角を曲がった瞬間に思い出す。楽しくて忘れていた。この夢は、きっと“最後”なのだ。明日からまたただの友達になる。一緒に遊びに行けるとも限らない。私は引き返す。小走りで。一日歩き回っていたから、全然早くならない。今伝えなきゃ。


 通ってきた道を引き返したけど、隆一はいない。スマートフォンを手にする。


『遅くにごめん。今、どこ? もう家?』


 もし、家なら、もう一度出てきてもらうわけにはいかない。


『え? なんだよ急に。いや、美桜と花火見た川沿い歩いてるけど』


『ちょっと待ってて!』


『ん? 急になんだよ……』


 電話を切って私は走る。自分の今の気持ちが、今度こそ消えてしまわないうちに。


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