3'''''....
きっとそうなのだ。私が隆一との花火を楽しんでいて、でも、付き合わなくてもいいとかワガママを願ったりするから、私はこのままなのだ。
ぼーっとベッドの上で考える。
「そろそろ支度しなくていいの?」とお母さん。
「今行くー」
髪の毛のセッティングを手伝ってもらえってるときも、同じことを考えてる。今のままって楽しいよなぁ。しかも楽しいことが分かってるんだもんなぁ。でも、なんでだろう。この寂しさは。
なんだかズルしてる気がするからかな?
「何考えてんの、美桜。ぼーっとしてるわよ」
「え?」
お母さんが手を止めて、私に問う。こんなの初めてだったんじゃないだろうか。
「ううん。なんでもない」
「あら、そう」
よく私が考え事してるなんてわかったなぁ。でも初めての機会だ。聞こう。けど、なんて聞こうか。お母さんなら何て言うんだろうか。何度も同じ体験をしてるなんて言っても伝わらないよね。着替えも終わりかけのタイミングで言葉がまとまる。
「あのさ、お母さん」
「ん? 何?」
「もしね、ずっとね。今が楽しいとしてね? ずっと今が続いてほしいって思うのは間違いなのかな?」
「え? どうしたのよ」
「私は今日の花火大会がとても楽しみで、ずっとそれを楽しんでいたいって思うのはよくないことなのかな?」
お母さんはやれやれといった表情を見せながら、口にする。
「みんなそうじゃない?」
「え?」
「私だっていつもそうよ。あんたの準備手伝ったりしてる時間は楽しいし、お父さんにも健康のままでいてほしいし、みんなそうよ。動きたくないよ」
「そ、そうよね」
「でもね? 今のままだったら、この先にもっと楽しい瞬間があっても、それを味わえないかもしれないよなぁとも思うの。あんたの花嫁姿も今のままじゃ見れないし、お父さんも仕事あるからゆっくり私と過ごせたりはしないし」
私の浴衣の準備がちょうど終わる。
「だから、美桜。今日だけじゃなくて、明日も楽しみなさい。そんなに学校が嫌なの?」
「違うよ!……でも、ありがとう」
私はようやく目を覚ます勇気を手にした、はずだ。
◇
「どーした美桜。ぼーっとして」と隆一は私の顔をのぞきこんでくる。
「あ、いやなんでもない」
彼は、また褒めながらけなしてくる。じきに花火が始まる。これが、二人でこの関係のまま見られる最後の花火だ。私は、そう、確信してる。
この花火は、今まで見た中で一番美しかった。これが最後だと打ち上がったときに感じたからだろうか。終わりがある方が花火は、きれいなのかもしれない。
「ありがとな。美桜。射的はあれだったけど楽しかったわ」
「お誘いありがとう。なんとか思い出作れたよ」
「俺なんかと来てよかったのか」
私は大きく息を吸う。ドキドキする。大丈夫、言える。
「どうした? 考え込んで?」
「あんたと来れてよかった」
「え?」
大きく隆一は目を開く。目と目が合う。だけど!
いや、やっぱりこれ以上は言えない。隆一の顔が赤い。私もきっとそうだ。
「楽しかったよ。また明日学校でね」
「お、おう。じゃあな」
隆一はまだ驚いた様子で、手を振る。
私の夏が終わる。思ってた通りにはいかないけれど、また次こそ息を整えて、挑戦すればいい。
でも、角を曲がった瞬間に思い出す。楽しくて忘れていた。この夢は、きっと“最後”なのだ。明日からまたただの友達になる。一緒に遊びに行けるとも限らない。私は引き返す。小走りで。一日歩き回っていたから、全然早くならない。今伝えなきゃ。
通ってきた道を引き返したけど、隆一はいない。スマートフォンを手にする。
『遅くにごめん。今、どこ? もう家?』
もし、家なら、もう一度出てきてもらうわけにはいかない。
『え? なんだよ急に。いや、美桜と花火見た川沿い歩いてるけど』
『ちょっと待ってて!』
『ん? 急になんだよ……』
電話を切って私は走る。自分の今の気持ちが、今度こそ消えてしまわないうちに。
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