君と8月の向こうへ
まつこみ
1
◇
「えぇ!? 今の当たったくない? 美桜見てたよな?」
隆一は、周囲の喧騒に負けないくらいの大声で、私に同意を求める。彼の放ったおもちゃの弾は、確かに新型ゲーム機を捉えた。びくともしなかったけれど。
「当たったけど倒れてないから、だめっしょ」と応じる。
納得いってない隆一に、縁日のお兄さんは声をかける。
「お嬢さんの言うとおりだ。またお願いねー」
少し離れてから隆一は「誰がいくか」と恨み言を口にしている。
「多分対象年齢外でしょ。私達」
「いや、あのゲーム機は大人も遊べるやつだぞ」
「射的がよ」
「…………」
少し照れたのか押し黙っている。かっこ悪いところを見せたとでも思っているのだろうか。
始まるときは長すぎると思っていた夏休みも、今日の花火大会で終わりを告げる。私も隆一もそれぞれテニス部で、お盆以外のオフは今日だけだった。
◇
『明後日の花火、いかん?』
今年も部活だけで夏が終わったなーと思っていたタイミングで彼からLINEが来た。周りの友人たちは宿題がなんだとか言って、誰も8月最後の日に遊びに行く空気なんてなかった。ナイスだ隆一。
『いく』即レス。
中学の頃から同じ部活の付き合いで、色んな友人が高校生になってからできたものの、なんだかんだ私と彼はずっと仲がいい。お盆にはファミレスで一緒に宿題したりもした。でも、返事してから気づく。あれ……私、男の子と花火大会に行くなんて初めてだぞ……というか普通の男女の間合いで花火大会なんて行くの……?
てか、普通って何なんだろう……?
せっかくの花火大会だからという名目で、久しく着ていない浴衣がどこにあるか母親に尋ねる。
「と、友達と花火大会にいくことになったの」
相手が腐れ縁の隆一なのに、妙に頬があつい。
◇
「どーした美桜。ぼーっとして」と隆一は私の顔をのぞきこんでくる。
「あ、いやなんでもない」
「慣れない浴衣で疲れたりしてる? ちょっと休む?」
「いや、優しいんだか毒吐いてんだかわかんないんだけど」
「お、そろそろ始まるな。川沿い向かうか。あと浴衣似合ってるぞ」
「もっと言うタイミングあったでしょ」
隆一が何を考えているのか、わからない。私自身隆一のことをどう思ってるのかもわからない。
でも、人が増えてきて隆一が「はぐれそうやな」と手を握ってきたときに、びっくりしたっていう感情以上に、まだ花火が始まらなくていいとは思ったし、隆一の手、緊張している気がする。
のもつかの間。
ドン……パラパラパラ……
「お、始まったな。早く座れそうなとこ探そうぜ」
川沿いには沢山の人が詰めかけている。私たちも身を寄せ合って、腰かけて花火を見上げる。色とりどりの花火が開いては、しぼんでいく。
「きれいだなー」
「うん」
「ずっと見てられるわー」
ヒュルルルー。ドンドンドン
この花火が終わったら、夏が終わる。また私たちは腐れ縁の友達同士。きっと何も変わらず、楽しい。
「学校めんどいなー」
「だねー」
でも今のこの時間は楽しすぎる。横に座る隆一に目をやる。ずっと続けばいいのに。
あっという間に最後のものと思わしき花火が上がって、興奮冷めやらぬまま家路につく。
「ありがとな。美桜。射的はあれだったけど楽しかったわ」
「お誘いありがとう。なんとか思い出作れたよ」
「俺なんかと来てよかったのか」
隆一はいつもの軽いノリで聞いてくる。けれど、もしかしたら。
いや、私を誘ったときから隆一はきっとそうなのだ。
『あんたと来れてよかった』とさえ言えば、もしかしたら、友達より少し先にいけるのかもしれない。でも、うまく言えない。
「楽しかったよ。また明日学校でね」
私はにっこり笑顔で返す。隆一は、やっぱりそうだよなって顔に書いてある。
「おう。家この辺だよな。もう少し先か? 気を付けて」
「ありがとう」
お互い距離が近すぎて気が付かなかった。けれど、今じゃなくてもいい。9月からもっといいタイミングがあると信じて。
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