第12話 浸透
「えーと……一旦俺から降りてもらっていいかな」
今、紗耶さんが俺に跨るような格好になっている。それも目が離さないよと猛烈にアピールしている。
「どうして? だってこれで私たちを阻むものはなにもないよ? インサイダー取引のことについては私を信用してほしい。絶対ならないようにするから」
もうインサイダー取引がどうこうという考えはスッカリ消えていた。今の紗耶さんをみれば信用できる。こんな体勢ではあるがそこだけは信頼していた。
「私ね、本当に泣きそうだったんだから。せっかく真夏くんのお嫁さんになれたと思ったのにダメとか言われちゃうんだもん」
待て待て。その言い方だと本当に俺のことを好きでお嫁さんにきたって感じじゃないか。このうるうるした表情を見ると勘違いしてしまいそうになる。紗耶さんが俺のことを好きだと。
確かに今日の言動を考えると至る所に好意的な言葉があったような。なんか自分からここに来たみたいなことまで言ってた気がする。
そんなことを考えると急にドキドキしてきた。目の前にいる女の子がもしかしたら俺のことを好きかもしれない。こんなことがあって良いのだろうか。
「一つ、私のいうことを聞いて欲しいな。いい?」
夢見心地のところで紗耶さんが要求してくる。なんかこの跨られた体勢だと断りずらいな。
「今日、別々の布団で寝る予定だったけど、一緒に寝て欲しいの。変なことはしないから、ただ側にいてください」
そう言うとゆっくり俺から降りて紗耶さんが寝る予定だった布団を畳み始める。あれあれ? 俺まだなんの返事もしてないんだけど。もう一緒に寝ることが確定してないですか?
「準備完了! じゃあ真夏くん……おじゃまします……」
そしてなんと言うことでしょう。本当に紗耶さんが入ってきたではありませんか。
普通サイズの俺のベッドは人二人が寝るようには設計されていない。そんなベッドに二人が寝ようとしたら……
「えへへ。距離近いね」
こうなることは分かりきったことだろう。ベッドはぎゅうぎゅう。紗耶さんと肩と肩がくっついてしまっている。
落ち着け落ち着け。バクバク動く心臓をどうにかしたいと思うがどうにもならない。
横目で嬉しそうに微笑む紗耶さんを見るとドキドキしながらも心が温かい。今日紗耶さんと過ごすことで彼女を女の子として強烈に意識してしまった。
「おやすみ真夏くん。これからよろしくね」
「うん。よろしく紗耶さん」
自然と、よろしくという言葉が出てくる。やはり随分と紗耶さん成分が俺の体の中を巡っているらしい。
電気を消した後も寝るのには随分と時間がかかってしまった。
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