異世界おかわり、もう一丁っ!!
HY
プロローグ
第1話 プロローグ 1(修正版)
「きゃっ」
風のイタズラに、スカートを押さえる女子高生の声。
風に文句を言いながら、友達と恥ずかしそうに歩いていく。
『あざっす』
俺は心の中で手を合わせながら、そう呟いた。
瞬間、右の耳たぶに指で弾かれたような痛みが走る。
「っつ、痛いなぁ」
これくらいイイじゃないか。
「俺はお前たちの国を救ってやったんだぞ?」
俺は耳を押さえ、つぶやく。
今度は逆の耳たぶに根性焼きをされたような(されたことはないが)…。
「熱っつ!」
慌てて冷やした左手で左の耳たぶを押さえる。
ヤバい、少し大きな声を出してしまった。
恐る恐るあたりを見回す。
予想通り…。
指さす子供と、嗜めながらその手を引いて足早に離れる母親。
かわいそうなモノを見る目のおばあさん。
明らかに距離を取ったOL。
おい、こら、そこの大学生!撮るんじゃない!ましてや上げるなっ!
下を向き、そそくさとその場を離れる。
『お前らのせいで余計な恥かいたぞ』
今度は、ちゃんと頭の中で、彼女らを非難した。誰にも聞こえないように。
[ワタシの力を、あんな事に使うからでしょ!]
[そうだな、隼人が悪い。]
[オマエ、こっちに帰って来てからホント、ダメ人間だな。]
[まぁまぁ、ハヤト君だって若い男の子なんだから。]
[こんな布切れでよければ、ワシのを見れば良いじゃろ]
[[話をややこしくするなっ!!!]]
頭の中でかしましい声の大合唱。
頭の中で5人の可愛い女の子の声が響く。
..........................................。
大丈夫、安心して。俺はおかしいワケじゃない。
アルミホイルも必要ない。
今から3ヶ月前に俺は、声の主である彼女たちに、いわゆる[異世界]へ召喚されていた。
そしてその異世界[ダステール]のある国、[オスル王国]を救ってきた。
いわば救国の勇者だ。
とは言え召喚されてすぐは、異世界召喚にお決まりのチートスキルも何も無く、貧弱な陰キャの男子高校生は召喚に失敗したとして、随分ぞんざいな扱いを受けた。
命懸けの修行をくぐり抜け、王国で1.2を争う実力者になったが、死にかけたのは1度や2度じゃなかった…。
冒険だって、世界を闇で満たそうとする大魔王を倒す!なんて物語のような冒険大活劇ばかりではなかった。
基本は国中に掘られたダンジョン[魔界への穴]を攻略し、各ダンジョンのボスを倒し、[魔界への穴]を封じる…。
基本はダンジョンRPGだったが、たまに魔族が大量に押し寄せ…思い出すと気が滅入る。
まぁ、[魔界の穴]が開きっぱなしだと魔界から魔物が溢れてくるそうだから、オスル王国を救った事には違いない。
そんな異世界で5年もの冒険を終えて元の世界に戻ってくると、こちらでは3ヶ月しか経っいなかった。
5年の死闘で鍛えられ、逞しく成長した俺の肉体も、召喚前の普通の男子高校生にほぼ戻り、学校にも復帰して毎日元気に登校している。
こちらに帰って来てまだ3日だというのに、すでに召喚される前の普通の日常に戻っている。
周りの好機の目は少し痛いが、鍛えられた俺の精神力ならなんてことはない。
召喚前と変わったのは、脳内に住み着いた彼女たち。
『世界を構成する5元素の妖精たち』と、それに付随する魔法が使えるようになった事だろう。
彼女たちは俺が気に入ったらしく、異世界から付いて来てしまった。
彼女たちの力で、こちらの世界でも冒頭のようなイタズラが可能になった。
ほんと、素晴らしい力だ。
5年の異世界生活を思い出し、少し懐かしんでいた時、
「あ、あのっ!」
掛けられた声の方を向くと、クラスメートの女子が二人。
少し茶色がかった、肩より少し長めの髪。
少し跳ねた毛先が少女の可愛らしさを強調する。
くりっとした大きい瞳にも目を引かれるが、何より引かれて離せなくなるのはその胸だろう。
150cmない身長には不釣り合いな大きさのその胸から、簡単に目を離せる人間はいない。
そして、もう一人。
腰程もある綺麗なツヤのあるまっすぐな黒髪。それをポニーテールに括っている。
切れ長の瞳がクールで大人な印象を与えるが、仲の良い道祖といる時は、
年齢よりも幼いイタズラっ子に見える不思議な少女だ。
『子犬がじゃれ合ってるみたいだな』
道祖の背中を押しながら、何事かけしかける神前。
負けじと足を突っ張って押されまいとする道祖。
そんな美少女ふたりのイチャイチャを見ながら、そんな事を考えていた。
「何か用?」
見かねた俺は、二人に声を掛ける。
だが、二人はこちらから話しかけられるとは思ってなかったようだ。
少しびっくりした顔でこちらを見ている。
そりゃそうだ。
5年前(こちらでは3か月前)、
召喚(こちらでは家出、失踪扱い)される前の俺は陰キャで、クラスでもあまり目立たず、数人の男友達と教室の端でひっそりとたむろっているような生徒だった。
一方彼女達はクラスの人気者で、俺なんかには高嶺の花。
そんな俺から話しかけられたんだ。びっくりしても仕方ない。
「お、俺に何か用かな?」
もう一度声を掛け直すが、しまった、声が上ずった!
異世界で女の子には慣れたつもりだったけど、コッチでは女の子と会話なんてないから!
「
神前がなかなか失礼な質問をしてくる。
「どうだろう?失踪中のことはよく覚えていないんだ…。」
神前の問いは適当にごまかす。
3ヶ月失踪してたけどホントは異世界で5年もダンジョン探索してたんだ!なんて言えやしない。
…いや、ホントは少し、言ってみたい。手に汗握る、数々の冒険のエピソードを。陰キャだった俺が、君たちみたいな美少女にも臆せず話しかけられるきっかけになったエロエピソードをっ!
異世界でのエロい経験を思い出して少し、頬が緩んでしまった。
[ド変態が]
[すけべぇじゃのう]
[男の子ですものねぇ]
頭の中の妖精がうるさい。
こいつらがこっちに付いて来て以来、妄想もままならない。
監視社会にNo!だ。
「あ、あのね、高御座くん!」
道祖の声に妄想から復帰する。
「えっと、3ヶ月も学校お休みしちゃったじゃない?」
「そうだね」
俺的には5年だけど。
「それでね、えっと、その、もし、もしだよ?」
道祖の会話は中々も進まない。
異世界に召喚される前の俺のように、異性との会話にテンパっているようだ。
そう言えば、道祖が男子と話してるのをあまり見た事がない。
いつも今みたいに神前の後ろに隠れてたな…。
そんな俺との会話がままならない道祖を見かねた神前が助け舟を出す。
「これからアスカと一緒に勉強会なんだが、もしよかったら一緒にどうだ?
3ヶ月分の授業も取り戻せるんじゃないか?」
美少女二人との勉強会ー。
とても魅力的な提案だ、断る理由がない。
「ありがとう。ぜひお願いするよっ」
俺は異世界で身につけた、異性を魅了する笑顔を二人に見せた。
これはスキルとか魔法じゃない、処世術みたいなもんだ。
結果、道祖は少し頬を赤らめたように見えた。
逆に神前の顔は少し引きつったように見えた。
なんだよう。
そして俺は、二人と勉強するため美少女の家へ…。
と思ったら、行き先は図書館だったー。
つづく
『転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜』という作品も投稿しておりますので、そちらもお読みいただけると幸いです。
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