精霊武装世界の冒険者たち
柊 匁
第一章 入団編
第一話 『第二の秀才』
『精霊』、それはこの世界における冒険者たちの力の源。
冒険者は精霊を武装し敵と戦い、クエストをこなしたり、ダンジョン探索などをしている。
力のある冒険者は冒険者団の団長となり、自身が持つ冒険者団所属の冒険者を引っ張っていく立場となる。
ここはブレバロード大陸の中央王国タクト。他の国には都市や町、村などが存在するが、この国にはそれらは存在しない。国全体が都市みたいなものである。
この国の中央にはタクトを統べる国王でもあり、ブレバロード大陸を統べる大陸王でもあるマーチ・ブレバロード王とその王族が住んでいる城がある。
大陸王の城下町とあってか至る所に高級そうな店が待ち構えており、とても栄えている。特に今日は皆、店の前に露店を出し、大きな声を出しており、商売に力を入れている。
本日、12月1日は僕、カイ・ブライトの第二冒険者学校の卒業式だった。何故過去形なのか。答えは簡単、もう式は終わったからである。
さぞかし感動的な卒業式だったのか思いきや、僕は口下手ということもあり、人とコミュニケーションをとるのが苦手で、そんな僕には仲のいい友達などいるはずもないため、特にこの学校に思い出はなく、ぼーっとしてたら式は終わっていた。ぼーっとして時間を奪われるくらいなら、僕の好きな読書をさせて欲しかったと式が終わってから僕は若干の苛立ちを覚えた。
そんな僕は今、何をしているのかというと読書だ。正確には、人と目を合わせぬようフード付きマントのフードを被って、読書をしながらタクトの街を歩いている。読書しながら歩くことには慣れているため、人や障害物に当たることはない。
タクトの街を歩き、向かう先はタクト中央の大陸王の住む城の東隣にある精霊堂である。精霊堂ではこれから第一から第五まである冒険者学校の卒業生全員が集まり、精霊授与の儀式が1人ずつ行われる。タクトの街を歩いていると、多くの視線をフード越しでも少し感じるが気にしない。そうすると、ふと声が聞こえてきた。
「もしかして、あのフード被ってる人って、『第二の秀才』じゃない?」
――この話は冒険者学校の仕組みと僕の冒険者学校時代についてである。
冒険者学校は初等学校を卒業、つまり約12歳で入学することができるが、入学認定試験を受け、合格する必要がある。他の試験は学力と実技の試験があるが、入学認定試験は実技は問われず学力だけである。入学認定試験を合格すると、学校側から第一から第五まで適当に分けられ入学する。先生が違ったりするが、授業内容などの各学校間の差はない。また全冒険者学校はタクトにあり全寮制のため、友達と離れ離れになっても休日には遊べる。まあ、僕には元から遊ぶような友達なんていないけど。
そこから冒険者学校では第五学年まであり、年に2,3回ある定期試験での平均点を基準点以上取り、さらに学年末の学年昇格試験に合格することで一つ上の学年に上がれる。もちろん定期試験では学力と実技、どちらの平均点も基準点以上取らないといけないし、学年昇格試験ではどちらも合格しなければならない。
そして、最後に卒業認定試験を合格すると冒険者学校卒業となる。なので、初等学校を卒業後、最短で冒険者学校卒業できるのは17歳である。
ちなみに全ての試験において、第一から第五の全冒険者学校一斉に試験を開始する。もちろん全冒険者学校で学力、実技ともに同じ内容の試験である。試験の結果は全冒険者学校の全生徒の結果が開示される。つまり、他の冒険者学校の他学年の生徒の結果までも見ることができる。また、学年ごとに全学校の全生徒含めた学力、実技それぞれの全体順位の上位も開示される。
一見、色んな試験を合格しなければならないで難しいのではと思うが、どの試験も学力であろうと実技であろうと真面目に学校生活を送っていれば、普通に合格できる。厳しいことを言うが、これくらいの試験で不合格のものは冒険者になる気がないのか、それともそれまでの実力だったということだろう。事実、一度不合格になった試験を合格した例をあまり見ない。今回の第二冒険者学校の卒業生の全員が一度も試験で不合格になっていないものたちであった。
ただし、どの試験でも合格することは難しくないが、どの試験の学力、実技のどちらにおいても9割以上の点数を取ることは非常に難しいとされる。
僕はその9割以上が難しいとされる試験において、学力の方で全試験で満点や9割以上の記録を出し、学力の全体順位でも常に1位だった。これは今までの冒険者学校の歴史の中でもなかったことらしい。
その結果、いつしか他の冒険者学校の生徒含め周りから『第二の秀才』と呼ばれるようになった。ちなみに実技に関しては何回か実技の全体順位の成績上位者に名を連ねたことがあるくらいだった。
『第二の秀才』と呼ばれるようになったというとかっこいい称号を得た感じで聞こえはいいが、実際はその称号がいらないほど嫌だった。学校では色んな生徒から要件なく話しかけられるようになり、時には全く知らない生徒から肩を組まれるようなこともあった。
そして、そんな所謂絡んでくる生徒全員に対して、無愛想な顔で一言目に「誰ですか?」と言い、続けて二言目に「すみませんが、話しかけないでください。」と冷たい態度を取り続けた。なぜなら、絡んでくるほとんどの生徒が「自分はあの『第二の秀才』と友達」という欲望が見え見えだったからだ。それに話しかけられる度に読書の邪魔になるのが1番嫌だった。
また買い物をしにタクトの街に出たら、他の学校の生徒からの視線を痛いほど感じ、買い物をしたその店の店員が「ありがとう、秀才くん。」と言ってくる。こちらは悪気なく言ってくるため尚更厄介であった。
人とコミュニケーションをとるのが苦手な僕にとって、これらは苦痛でしかなかった。そこでその対策として生み出したのがフード付きマントを羽織る事だった。
最初は学校側に提案し許可を取ろうとしてもさすがに却下されたが、授業中はマントをつけないこと、今後も学力の方では好成績を取り続けることという約束を学校側が提示し、それを僕が了承する形で許可がおりた。
しかも、洗濯などの都合上マントは3着必要だったが、3着ともマントの代金を学校側が『特待生の学費免除』として払ってくれた。僕に冒険者としてのいろはを教えてくれた面においても、そういう楽しく学校生活を送る面においても学校にはとても感謝している。今では登下校や昼休みなどの授業中以外の学校生活や街に行くときは常に羽織っている。
学校ではもちろんマントを付けている人なんていないので、マントやフードのおかげで話しかけるなオーラが出てるのか、それとも変人と思われてるのか、どちらにしろ以前より話しかけられなくなった。街ではマントは冒険者などに見られるが常にフードを被ってる人なんてあまり見たことないので目立つから逆効果ではと思われるが、そのフードのおかげで頭の大部分が布で覆われ、視界が狭まることにより、周りからの視線がフードを付ける前より全然感じなくなった。
ちなみに卒業式は学校側からお願いされ、渋々マント無しで出席した。
そういえば、第五には全試験の実技点数が9割越えで常に実技の全体順位が1位の生徒がいるらしく、これも今までの冒険者学校の歴史の中でもなかったことらしい。どうやらその生徒は『第五の天才』と呼ばれているのを耳にしたことがある。名前はリリ……。まあ聞いたら分かるのだろうけど、正直、興味がないのでハッキリ覚えていない。だけど、そんな存在がいるということを頭の片隅に置いておくくらいはしておこう。
――長々となってしまったが、これが冒険者学校の仕組みと僕の冒険者学校時代の話である。
「もしかして、あのフード被ってる人って、『第二の秀才』じゃない?」
ふと声が聞こえしまってから周りの声や視線がだんだん気になってしまった。そのせいで読書に集中できない。しょうがなく、僕はマント中に隠れている肩から斜め掛けしていた鞄にそっと本をしまった。
その直後だった。突如、ダダダダッと前方から走ってくる人の姿が見えた。100mぐらい先から冒険者学校の制服を来た女子生徒が一目散に僕の方に走ってくるではないか。それも走るスピードがかなり速い。
逃げようかな。でも、それはそれで後々面倒になる、いや……。
そう色々考えいる時点で遅かった。気づいたら彼女と僕の距離は10mほどになっていた。それでも彼女はすごいスピードで走っている。
そして、ついに僕の目の前に着くと走った勢いのまま、彼女は両手で僕の両肩をガシッと掴み前のめりになる。走った勢いのまま両肩を掴まれた僕は後ろに倒れそうになり、咄嗟に左足を引いて身体を支えた。上半身は少しのけぞったため、被っていたフードが頭から外れてしまい僕の髪や顔が露わになる。
フードが外れてしまったおかげで彼女の姿がハッキリ見えた。彼女の身長は157cmの僕の身長より10cmほど高く、肩口まである綺麗なブロンドヘアで、今、興奮して輝きを放っている目は宝石のような赤眼であり、こちらもとても綺麗である。制服の胸元には第五の生徒を表すⅤの校章が付いており、肩から鞄を下げている。
そして、彼女は興奮冷めやらぬまま、僕の髪や顔を確認しながら見た後、笑顔でこう言った。
「白髪にも銀髪にも見える髪に澄んだ空のような碧眼!そして、フード付きのマント!君に会いたかった!!」
「……誰ですか?」
興奮している彼女に一瞬、呆気に取られてしまったが無愛想な顔でそう答えた。
――これが『第二の秀才』カイ・ブライトと『第五の天才』リリア・クロウリーの最初の会話だった。
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