吾輩は神によって殺され悪魔の手によって過去に蘇った

赤い獅子舞のチャァ

第1話 神によって殺された

| 神によって殺された

 俺の名は、鈴木隆司すずきたかし、ごくごく有り触れた苗字とごくごく有り触れた名前の組み合わせ、何の特徴も無い名前だ。

 中学生の頃なんか、1年間だけだが、同じクラスに他に字は違うが”すずきたかし”が俺を入れて3人も居た事がある程有り触れていた。

結果、1号2号3号と呼ばれていた程である。

 その有り触れた平凡な名前が嫌だった俺は、平凡になりたくなかった。

 必死で勉強をして、東大の理工に入り、認められて留学、マサチューセッツ工科大学に留学を果たし、インテル社に就職、その後、日本に帰って来て現在、BTOPCメーカーを立ち上げて一応社長業務をしている・・・いや、していた。

 つい、およそ150年後、38歳独身彼女無しでこの世を去るまでは・・・・・

 それは2021年7月、そう、2021年に新型コロナウイルスの世界的流行で延期となってようやく開催された東京オリンピックの真っ最中の出来事だった。

 後悔先に立たずでは有るが、今更ながらPCだけ作って居ればよかったのかもしれないと思う。

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 俺は、オリンピックに集中するあまり首都高の料金まで割高にし、そのくせ収束しないコロナに振り回される、生活し辛くなった東京から脱出し、アメリカの友人に呼ばれて、古巣の研究室で、ある試験的な新媒体による情報処理能力の向上及び記憶領域の拡大についての研究を手伝いに来ていた。

 その新媒体とは、人工生命体による生命コンピューターと言う大それた物だった。

 何故人工生命体なのか、それは、動物の脳等を使うよりずっと倫理的であると言う事から発足したプロジェクトだった。

 まぁ、果して人工生命体と呼べるかどうかも怪しい物ではあったのだが、それでも半導体のような反応をした鉱物を使い、何とか実験段階にまで至ったのだから大した物ではあると思う。

 俺は元々生体コンピューターには否定的な派閥だった。

 倫理的に認めたくなかったからだ。

 その点、今回のケースは倫理的な部分もクリアしていた。

 だからこそ、俺は知恵を貸しに来ていた、特別顧問としての給料にも一切興味は無かったが、興味本位で。

 まぁ、本音は煩わしいコロナとオリンピック中のグダグダな東京から逃げ出したかっただけなのだが。

「マーク!君はまた同じようなミスをしたね?そこの電源をカットしてしまうとこの鉱物人工生命半導体が死んでしまうと何度も言って居るだろう、今回は俺が早々に気が付いたから死滅前に電力供給を復帰させたから良かったが、こいつは作るのにかなりの金が掛かって居るんだ、君のバイト代では200年以上只働きしてもかえせないほどの額がだ!」

「あ! こら! アイリーン! 8番の電圧高すぎる、溶けるぞ!」

 最近の生徒達はどうもどこかが抜けてるようなのが多くていかん。

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「では、実験の最終段階に入る。 マーク、アイリーン、準備は良いか?」

「はい先生、安定しています、いつでもどうぞ。」

「こちらもコンディションクリアです、いつでもOKですわ。」

「では教授、歴史に我々の名前が刻まれる瞬間のカウントダウンをお願いします。」

「うむ、隆司、よくぞ我々に力を貸してくれた、お陰で遂に完成だ、それではカウントダウンの大役、受け給うとしよう。」

 教授が腕時計に目を落とし、カウントダウンを開始する。

「30秒・・・20秒・・・10,9,8・・・・・・・・・・・3,2,1、今!」

 俺がスタートボタンを押すと、ヴン・・・という感じの電子音が一瞬した後、人工生体コンピューターが立ち上がり、モニターにも電源が入る。

 成功だった、完璧であった、まだかなりのサイズにはなるので各家庭に普及とかそう言う事には絶対ならないとは思うが、国家規模で取り扱う大型スーパーコンピューターを従来の20分の1位のサイズに出来る予定だった。

 我々は様々な障害を乗り越え、遂に人工生命体コンピューターの素体とも言うべき脳、つまりCPUに当たる生物を生み出す事に成功した事になる、のだが・・・

 次の瞬間、頭の中に直接、かなり高圧的でかつ処理しきれる限界程の音量の声が響いたのだった。

《人の子よ、神々の秘め事に触れ、神のみにしか許されぬ禁忌を犯した人の子等よ、お前達の行いは我ら天界の逆鱗に触れた、よって処分せねばならぬのだ、悪く思うな。》

「待て!何者かは知らんがお前の一方的な言い分、大変遺憾に思う、我々は探求心に付き従ったまでで、その探求心を我々人間に植え付けたのは、神であると言い切るならばお前ら自身であって我々のせいではない、なのに一方的に処分する等とまるで生体プラントで培養に失敗して溶け掛けた細胞を廃棄するような口ぶりでは無いか、我々はちゃんと自我も意識もある、そんなゴミと一緒にして貰いたくは無い、いい迷惑だ。

 兎に角その処分とやらを取り消して要らなくなったペットを保健所に送り付けるような邪悪な所業を辞めて頂きたい。」

 反論をして見たが、問答無用であったらしい、我々の研究所施設は、原因不明の大爆発を起こし、我々は施設もろとも全員消滅した。

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〈何とか間に合ったようだな・・・〉

 どこか遠くから聞き覚えの無い低い声がする・・・

 俺はどうなった?教授は?俺の助手として頑張ってくれたマークは?アイリーンは?

 俺や教授は未だ良い、マークとアイリーンはまだ人生これからな学生では無いか。

 待てよ?俺達の研究室は神を自称する邪悪そうな者によって消滅させられたのでは無いのか?

 さっきの声は何者だ?目も見えない、手足も動かせない、俺はどうなった?

 さっきの声は、自称神の様に直接心に響いた気がするが・・・

〈ほほう、流石であるな、あ奴らに食って掛かった程の精神力の持ち主、魂の強度が相当強いようであるな。〉

 思った事が相手に通じているのか?

 それなら考えた事を念じて話し掛けてみよう。

〈貴方は何者ですか?私はどうなったのでしょうか?〉

〈ほう、我に話し掛ける事迄出来るか、かなりの強い魂を持っておるようだ。

 良かろう、答えて進ぜよう、我は魔王と呼ばれる存在、貴様は神の横暴によって滅ぼされ肉体は消滅した、しかし貴様の魂は強靭で消滅するまでに時間が掛かりそうであったので我が保護したのだ。〉

〈はぁ、精神論はあまり信じてはいませんが、つまり貴方が死に掛けた私を救って下さったと言う事で間違い無いですか?〉

〈まあ、判りやすく言えばそんな所であるな。〉

〈それは大変感謝致します、ありがとうございました、私の他に数名あの場に居たと思うのですが彼らはどうして居ますか?〉

〈うむ、かの者共はお主程の魂の強度が無かったようでな、ほぼ半壊して居ったわ、今我が眷属の者が処置をして居るが助かるかどうかは微妙であるな。〉

〈そうですか、助からないかも知れませんか・・・教授はともかく、マークとアイリーンの二人はまだ若かった、何とかして助けてやりたいのですが・・・〉

〈うむ、左様か、では貴様の魂力こんりょくを分け与えても良いか? 魂力は本来、余り人に分け与える物でも無いのだが、貴様の魂力ならば可能であろう、我も少々驚いた程でかなりの魂力を持っておるようだし、成功すれば、あ奴等とはいつでも魂の回廊がつながるので何処に居ても居場所を見つける事も可能であるし精神通話も可能になる。〉

〈へえ、便利ですね、それで彼らが助かるのならば最高じゃ無いですか、判りました、私の魂力とやらを彼らに分けてやってください。〉

〈うむ、久々にお主のようないさぎの良い肝の座った者と出会えたわ、貴様の願い叶えてやろう。〉

〈はぁ、そりゃどうも、所で、魔王さんとやら、私はこれからどうなるんでしょうかね? まさかとは思いますが異世界転生して貴方の部下になれとかそういうアレですかい?〉

〈はははは、何を言うか、我は貴様と同じ世界の魔王であるぞ、サタンとか呼ばれたりしておるがな、実は最近、神々の横暴さが目に付くので我は人の味方をしてやろうと考えておるのだ、従って貴様を転生させるのは同じ世界、但し、神々の目を欺く為に別の時代に転生させる事になるのだが、希望の時代はあるか?〉

〈いえ、特に何時が良いとかは無いのですが、そんなに色々希望を聞いて頂いても宜しいのですか?助けて頂いた上にそこまでして頂く義理も無いと思います、私も日本人に生まれた以上義理はお返ししたいので、貴方の要望には出来る限りお答えしたいと思いますので、どうかご希望をお話しいただけますか?〉

〈はっはっはっはっは!ますます気概の良い奴だ、あい分かった!では我が要求を話してやろう。〉

 この雰囲気からするとかなりの難題を吹っ掛けられそうな気がするのだが・・・・俺を一方的に消滅させた聞き分けの無い分からず屋の自称神などと言う姑息な輩に復讐できればそれはそれで良いかなぁ。

 ある意味この悪魔の要求を聞くことで、過去であろうが未来であろうが別の時代であろうとも生き返らせて貰えるならお互い勝ったも同然、まさにWin-Winと言うべきでは無いか。

〈では、良いか、心して聞け、要は単純だ、過去の世界大戦は知っておるであろう、その戦いは我ら悪魔の仕掛けた物ではなく、神々が増え過ぎた人の種を間引く為に興させた所謂カスタトロフとでも言うべき物であるのだ。

 そして貴様は同じように神によって抹殺される所であった訳だ、これを聞けば他人事とは思えまい? 詰まりだ、貴様は恨んでおるであろう神を出し抜き、これ以上ない圧倒的な技術力で軍を動かし、かの二つの大戦を早期終結に纏め上げ被害を最小限に食い止め、奴らに一泡吹かせてやるのだ。

 思わぬ伏兵の登場に神々は慌てふためくであろう、その時こそ我ら悪魔が天界へと乗り込み天魔大戦を成し遂げてやろうと言うのだ。勿論天界と我らの戦闘に参加せよなどと無茶は言わぬ、それは我々の仕事だからの。

 どうだ、稀代の英雄となっては見たくないか?〉

〈成程面白そうではあります、しかし、もし天魔大戦とやらで悪魔が圧勝してしまったりしたら、あの自称神とやらはどうなります?更に人間界はどうでしょう?悪魔による蹂躙が始まるのではないですか?私に人類滅亡の片棒を担げと言っているように聞こえるのですが?〉

〈はっはっはっは、神々の秘め事に到達しただけはある、流石に切れる奴よ、一瞬でそのような葛藤に辿り着くとは。 安心せよ、我は悪魔の王サタンである、貴様と我の契約として、一定数の生贄を頂きさえすれば人を滅ぼすなどと勿体無い事はせぬ。〉

〈しかし、生贄と来ましたか、俺にやはり人の道を踏み外せと言って居る訳ですか?〉

〈それも勘違いだ、人の出生率と流産等での死亡出産の割合を知らぬとでも申すのか? あれだけの魂が無駄に消えるのであれば我らにその権利を寄越せと言って居るだけだ。 貴様ら人も動物や魚を取り、喰う事で供養をし、自らの腹を満たして居るでは無いか、同じ事を我らにするなと言わないでくれ給えよ。〉

〈成程、もっともな意見です、そう言う契約であるならばお互い損は無く儲かる。 商売の基本とも言えるシステムでは無いですか、それならば了承しましょう、まぁ俺が勝手に了承して良いものかは知りませんがね。〉

〈益々クールで話しやすい男よ、我が貴様を人類代表として認めての交渉だ、気にする事は無いぞ。それと、この契約が交わされる事でお主は我と同格の存在である、敬語を辞めてよいぞ。 何、堅苦しい物言いを辞めてフランクに話そうでは無いか。〉

〈そうか、それではよろしくお願いしたい、お互い得する関係が一番気持ちが良い、それと、一つ聞きたいのだが俺の寿命ってどうなるんだ?〉

〈その質問は来ると思って居った、一度だけ、自分の成した子、もしくはその子供、つまり孫、その何れかを憑代に復活出来る権利を与える、人の生涯は短いのでな、その辺りも抜かりはない条件を提示しておく、これが我らからのお主への特権だ。〉

〈もう一つ聞きたい、マークとアイリーンに関してだが、何処の国に生まれ変わるかを指定できるか?〉

〈勿論だ、貴様と同じ日本人として生まれ変われるように手配しようか?〉

〈いや、彼らにも俺の様に話を通して欲しいと言う条件付きで何だが、アイリーンをドイツに、マークはアメリカに生まれ変わらせて欲しい。〉

〈ほう、またかなりな無謀な事を言い出すな、彼らと再会出来なくても良いと申すのか?〉

〈いや、むしろ必然として自力で再開して各国を動かせる礎を築いた者同士で国の連携を取る、これでお前ら悪魔の言う通りかなりの速度で戦争を終結させる!どうだ、俺がやると言ってるんだ、そんなに早く戦争が終結しても、お前らは天界に攻め込めるだけの軍勢を用意出来るのか?

 まずは日露戦争を早期終結させてソ連に日本の脅威を刷り込ませ、アメリカに日本と敵対する事を諦めさせる、そしてドイツには何年でももっと早めに日本との同盟を結ばせると言う話だ。

 恐らく歴史が驚く程変化するだろう。

 それを成し遂げるにはやはり3人の力を一極集中するよりも3点から同じ結末に向けて邁進した方が良い。〉

〈ふむ、非常に面白い戦略だ、ならば我が残りの二人に説得を試みるよりも恩師的な存在であったお主が直接交渉した方がよかろう、なお我々の戦力に関しては心配無用だ。 かの者共の魂をここへ。〉

 アイリーンとマークの魂が呼び寄せられたようだ。

 彼らの壊れ掛けた魂へ俺の魂力が注入される。

 ぐっと吸い上げられるような脱力感のようなものが一瞬襲うが、それも直ぐに治まった。

 彼らの魂はこれで安定したらしい。

 俺は、二人にこれまでの経緯と悪魔との契約内容を説明、そして我らが生き返る代わりに成しえねばならないミッションを説明する。

 彼らも神の横暴に憤慨し、悪魔の契約に納得した上で協力を約束してくれた。

 さぁ、忙しくなりそうだ、1次大戦までにはジェットエンジンかもしくはターボプロップによる亜音速戦闘機を開発したい。

〈では、生まれる年代の希望を聞こう。〉

〈そうだな、1870年代前半、本多博士と同級か後輩になろう、本多博士を抜いて物理と金属とエンジンの祖となってやる、国を動かせる程の名家の家系がいい。〉

〈良かろう、ある程度の家柄も必要であろう、楽しみにしておけ。〉

 そうして俺は過去に復活する事と成った。

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