第37話 走り屋ツーリング
俺が暫く抱き着いていてやると、永太が俺の体から離れて、はっとした表情をしていた。
「あ、ご、ごめん…いきなり抱き着いちゃって…」
「あ、い、いや、大丈夫」
「俺、無意識で変なことしちゃう癖があるんだよね…」
変なこと、俺にとっては嬉しいことです。…ってのは絶対に本人には言えないけど。
…そういえば俺、初めて人に抱き着かれたかもしれない。親はいつの日か俺に冷たくなったし、付き合った人もいなかったし…。いや、というか付き合えんし。…俺の初めてを取られたな、永太に。
「…ん、どうしたの、またぼーっとして」
「あ、ごめん何でもない」
「そっか、何かあったらすぐに言いなよ」
「ん、ありがと」
「じゃ、移動しますか」
「ど、どこ行くとか予定あるの?」
「うん、華成さんに…あ」
え、華成さんに何だって?あって何だ、あって。
「…華成さんの名前出しちゃいけないんだ」
「え、どういう…」
「んー…ま、いっか、取り敢えず俺に着いてきて」
いやめっちゃ気になるんですけど?何の話してたの?え?…まぁ、今は大人しく永太に着いていきますか。
「あれ、幸牙って今日車でここまで来たの?」
「うん、車」
「じゃあこれからツーリングってことだね」
「え、ツーリング?」
◆
永太の後を追いかけること数分。駐車場に辿り着いた。
「あ、幸牙の車ってどれ?」
「あ、えっと…あの車」
俺は自分の車がある方を指さした。スカイラインの白いボディが他の車より輝く。何か俺の車、結構目立つな。エアロとか着けてるせいなのかな。でもスカイラインの横に停ってるFDもかっこよくないか?黄色いボディの。
「え、あのスカイライン?」
「う、うん、あれ」
「え、マジ、幸牙スカイライン乗りだったの?」
永太が尻尾を振って目を輝かせながら話す。そんなに驚かれる様なことなのかな…。
「ちょっとよく見せて、あれ」
言い切る前に永太は車の方へ歩き出した。…時々いるよな、車の話になると夢中になる人。永太車好きなのかな?
「うわ、ガチガチにチューンしてあるじゃん、ボンネット開けてみてもいい?」
「あ、いいよ、開けるね」
車の鍵を解除し、レバーを引っ張ると、ガコン、と音がしてボンネットのロックが解除される。永太がボンネットを両手で上に上げる。
「うぉ…これがRB26…初めて見た」
あーるびー…何だそれ。型式?やばいな、オーナーなのに何も知らんぞ。…少し勉強でもした方がいいのか?
「良いなー俺のFDよりパワー出るだろうな」
「え、FD?」
「うん、隣のFD俺の車」
え、マジで?永太FDに乗ってたの?確かにここ停める時にFDの隣かーとは思ったけど。まぁ、ここしか空いてなかっただけなんだけどさ。
「え、FD乗ってたんだ…」
「うん、かっこいいでしょ」
「俺のよりかっこいい」
「いや、幸牙の方がかっこい…あ」
「…え?」
永太は力なくフラフラと膝から落ちて、そのままFDのボンネットに顔を埋めてしまった。
「…俺今日変なことばっかしてない?」
「割と普段からじゃない」
「
永太が顔を上げて少し大きい声で言った。言葉こそ乱暴だったものの、喋り方と表情は笑っていた。
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