第8話 お手間取らせるからいいよ


 ここは異世界、医療に関する些細なことでもお気軽にご相談していただける「身近なかかりつけ医」ソレアールクリニック。


 新人のクロは目つきが悪いし無愛想である。

 しかし実は根っからのおばあちゃん子で心優しい看護師だ。


「はい、採血終わりました。お疲れ様でした。それでは受付前の待合室でお待ちください」

「ありがとうねえ」

「お大事に」


 今採血が終わったのは齢九十六歳のおばあちゃん患者だ。

 足腰が弱く、待合室の家族のところまで歩くのに危なっかしい。

 しかし歩く手助けを名乗り出れば『お手間取らせるからいいよ』と断られる。


「……」


 クロがおばあちゃん患者が処置室を出て待合室まで行く道のりをそーっと後ろからついて歩く。

 その足取りはまるで忍者のように、患者に気取らせないよう細心の注意を払う。

 そしていざという時にはすぐに手を出せるように、おばあちゃんに触れない程度にそっと空中で手を添えて歩く。


 おばあちゃん患者はフルフルと脚を震えさせながらもなんとか歩いて待合室へ。


 クロが待合室で待つ家族と目が合う。

 患者本人には気づかれないようお互い頷きあって役割を交代する。




#今にも転倒しそうなのにそれでも頑なに自力で歩こうとする高齢患者さんがいる

#転倒は何がなんでも避けたいので、手助けを好まない方には気付かれないようにそおーっとついて見守る

#おばあちゃん子の看護師がいる

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