第215話帰宅

ハーパーは行きとは違いのんびりと馬車に揺られながら収容所へと向かった。


「手枷は痛くありませんか?」


隣では護衛兼見張りのジフが着いてきていた。


「あんたも大変だな、こんな囚人の護衛なんて」


ハーパーが笑うと


「いえ、ハーパーさんのおかげでシン国と戦争にもならずに死者も出さずにすみました…なのにあんな窮屈な暮らしでいいのですか?」


「俺にはあれがしょうに合ってる…それに可愛い妹も来るからな…成長を見守るのも楽しいもんだ」


「なるほど…それは楽しそうですね」


ミラの姿を想像したのか真面目な顔が少し綻んだ。


前を向くとこれからの暮らしを思い浮かべて目を閉じた…またミラが楽しそうに駆け回る姿を思うと引き締めている口角が上がってしまう。


ハーパーは口を隠して収容所まで寝ることに決め込んだ。





「ハーパーさん!ハーパーさん!」


ジフの起こす声にハーパーは目を覚ました。


ノアがいないのに熟睡してしまっていたのだ…そんな事は久しぶりだった。


「着きましたよ」


「ああ、ありがとう」


ハーパーは馬車を降りると…


「ハーパー…戻ってきたのか!?」


収容所の中から囚人達が声をかけてきた。


どうやら馬車が来たことを聞きつけて集まってきていたようだ。


「人気者ですね、ハーパーさんは」


ジフがハーパーを連行する振りをしながらハーパーにだけ聞こえる声で呟いた。


「いや、あいつらの目的は俺じゃないよ」


ハーパーは笑うと


「ハーパー!王都は…あの子はどうだったんだ!」


心配そうな声がする。


その声を聞いてジフは驚いた顔をしてハーパーを見つめた。


「ほらな」


「ミラさんは本当にどこでも人気なのですね…確かにこれなら十分ここで看守達の力になれそうです」


「だろうな…多分みんな言う事聞くぜ」


ジフはミラが何故ここで働けると自信満々で言ったかわかった気がした。


ジフはハーパーを無事収容所に送り届けると…


「では、またお会い出来るのを楽しみにしてます」


「それは…あんまり楽しく無さそうだな。あんたが捕まるって事にならないか?」


「それかハーパーさんがここを出る日が来るかもしれませんよ」


ジフは笑うとでは…と収容所を後にした。


看守に引き渡されたハーパーは看守長の部屋へと連れていかれると…


「おかえりなさい、あなたは下がってていいですよ」


ハーパーを連れてきた看守を下がらせた。


「王都での用事は済みましたか?」


ハーパーと一緒に送られてきた書類を眺めながらケイジ看守長が話しかけると…


「まぁ…それよりもこれからここが大変な事になるぞ」


「あっ!…そのようですね…」


ケイジ看守長はミラがここに来ると言う知らせを受けて苦笑した。


「いつか…とは思っていましたがだいぶ早く来ましたね」


「あとミラからの伝言でここに来ることを秘密にして欲しいそうです」


「そのようですね…こちらにも出来れば協力して欲しいと書いてあります。まぁ楽しそうな事になりそうです」


見ればケイジ看守長がクスクスと笑っていた。


「それで俺からも相談なんですが…」


ハーパーは困ったようにケイジ看守長を見つめた。

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