第16話 新しい部屋を掘ろう
「
その結果、ヘルシラント族の内部に、わたしを支持してくれる者たちが増えてきている。
部族のみんなに支持される事も勿論嬉しいけれど、その前に喜んでくれる事、笑顔を見せてくれる事が本当に嬉しい。
洞窟の中が一段落したら、今後は洞窟の外……周りの集落も整備して行くのもいいかもしれない。
水路を掘ったり、害獣対策に溝を掘ったり。更には、他部族の襲撃を防ぐために堀を作ったり。できる事はいろいろありそうだ。
「いい調子ですね、りり様」
リーナが嬉しそうに言った。
「儂の部屋も、あの様に広く綺麗にしていただいて大満足ですじゃ」
爺も嬉しそうだ。
わたしたちが会話をしている「族長の間」も、他の部屋と同様に、綺麗に整備されていた。
かつてわたしを閉じ込めていた鉄格子は、真っ先に「
玉座を中心に綺麗に整備された「族長の間」は、幅が拡張され、きっちりと真四角に整備されている。
奥に(リーナが交易で手に入れてくれた)フカフカのベッドが置かれて、引かれた水路から水回りも完璧。お風呂や手洗いまで完備されている、族長が生活するに相応しいスペースに姿を変えていた。
幽閉されていた頃は床に山積みになっていた本たちも、壁をくり抜いて作った本棚にきっちりと整理された状態だ。
こうした家具類は「族長の間」の後方、薄いベールの後ろに隠されている。
前方の空間は、玉座の前に、こちらもリーナが交易で仕入れてきた絨毯が敷かれている。いくつかの机や椅子も置かれていて、玉座に座ったわたしを中心に、会議にも会見にも使える、族長部屋らしいスペースに整っていた。
「この部屋もすっかり整ったわね、ありがとう、リーナ」
「ありがとうございます」
わたしの言葉に、リーナが嬉しそうに頷く。
「でも、やはり後ろの方に、ベッドやお風呂があると手狭ですわね」
確かに、大きいとはいっても一つの部屋が、手前が会議などの公的な場、後ろが私生活スペースと半分に区切られているので、やや手狭なイメージがある。
「できればやはり、りり様の私生活スペースは、こことは別に欲しいところですが」
「そうですのぅ……」
「うーむ」
みんなで頭を抱える。
こことは別のスペース、と言われても、族長部屋は最深部にあるし、その手前は長い通路になっている。攻め込まれた時の防御面を考えてのことらしい。そのため、代わりに何かを確保できるスペースは無いのだった。
「そうだ」
ぽん、とリーナが手を打って言った。
「りり様の私室用に、新しく部屋を『掘られて』はいかがでしょうか」
「なるほど、りり様のお力であれば……」
爺も頷く。
新しく通路や部屋を掘る、か。そういえば、その発想は無かったな。
これまでは洞窟内で、既存の通路や部屋を整備してばかりだったけれど、洞窟を掘って、新しい通路や部屋を作れば、洞窟の生活スペースが拡張される事になるし、みんなの役にも立ちそうだ。
落盤の可能性もあるので、堀り方には気をつけないといけないけど……。
ともあれ、まずは手始めとして、自分の部屋で試してみるのもいいかもしれない。
そんなわけで、さっそくわたしは……新しい通路を、族長の間の後ろ側を「
……………
「新しく洞窟を掘られるなら、やはりこの部屋の奥ですね」
リーナが言った。
「この部屋……って、族長の部屋?」
「はい。普段使われているお部屋の隣になりますし、何と言っても、ここが洞窟の一番奥ですから」
確かに、この「族長の間」の奥にもう一つ部屋を……わたしの個人用部屋を作る事ができれば、大分便利になる。
防御面などを考えて、族長の部屋は、洞窟の最深部にあるのだ。確かに言われて見れば、ここから出口に行くまで結構登った気がする。
「この洞窟の出口は、ヘルシラントの山……『かんむり山』の山頂にもありますが、最初は山の中腹にあった自然の洞窟だったそうです」
改めて爺が説明してくれる。
「確かに、この洞窟の正式な入り口は、山の中腹にありますね」
リーナは頷いた。
「その洞窟を先祖代々から掘り進んでいって、上は山頂まで。そして下はこの族長部屋まで掘り進められて、現在の姿になっているのです」
「一番底であるこのあたりは、岩盤が固くて、地震などでも安全。一番奥なので、防御にも最適です」
爺が補足してくれた。
「……そして何より、固くてこれ以上掘れない、という理由で、ここが終点……族長の間となったのですじゃ」
確かに、このあたりの岩肌だけは、他の場所とは違う感じがする。入り口付近は砂が混じった様な石壁だけど、このあたりは完全にごつごつした硬い岩、という感じになっている。ここを手堀りで掘るとなると、さぞかし大変だったのだな、と思われた。
「現に、後ろをご覧になって下さい」
リーナに促されて、わたしは玉座の後ろを見た。
すぐ後ろの壁に、ツルハシで削った様な跡が、筋の様に残っている。
このあたりの部分は、岩の感じが洞窟の他の場所とは違って、何だか結晶っぽい……というか、つやつやと光っている感じがする。ガチガチの岩という感じで、これは固そうだ。
そして、そのツルハシの跡も、壁を浅くしか削れていない。このあたりの壁が固すぎるのだ。
ヘルシラント族の先祖が営々と底まで掘り進めてきたこの洞窟だが、このあたりで、壁が固すぎて、諦めたというところだろうか。
「ここから奥の壁……りり様のお力で、掘り進められますか?」
……………
「族長の間」の後ろ側を、掘ってみる。
この、何気ない行動が……わたしとヘルシラント族の行く末を、大きく変えていく事になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます