ゴブリン文学少女、大ハーンになって大陸制覇、目指します!

桔梗屋長月

第一部 覚醒編

プロローグ 大ハーン誕生

 我が本拠、ヘルシラント山の頂上。天幕の中で、わたしは目を開けた。

 わたしが座る玉座の目の前には、各部族の長たちが跪いている。


 天幕の外では、もう夜が明けようとしている。

 「その時」が近づいた事を察してか、空気が張り詰め、次第にざわざわとした声が大きくなってきた。

 天幕の中を見回すと、集まった各部族の長たちが一斉に頷く。

 さあ、いよいよだ。


 わたしは長たちの間を歩き抜け、天幕の外に出た。

 夜明けの空は白み、白い穂に覆われた草原が輝いている。

 かがり火の松明が燃え続けていたが、もう必要がない程、周りは明るくなっていた。

 これだけ明るくなっていれば、わたしの姿もよく見えるだろう。


 ぴりぴりとした空気と喧噪が伝わってくる中、わたしは頂上の端まで歩き、眼下の景色を見下ろした。


 さあっと朝日が差し込んで来て、山の下の世界を照らし出す。


 ……山の下は、どこまでも、地平線まで続くかと思われる程の人波で、埋め尽くされていた。

 正確には「人」波ではない。ほとんどはわたしと同じ、ゴブリンたちの群れだ。


 様々な部族たちの、旗印が見える。

 我が部族、ヘルシラント族。

 イプ=スキ族。マイクチェク族などの近隣部族。

 それだけではなく、ユフィン族やベルヌイ族など遠方の有力部族もいる。

 彼らをはじめとした、この大陸に住むゴブリン部族の大半が、この「炎の冠山」、ヘルシラント山の麓に集結していた。


 それだけではない。異大陸から参加してくれた部族。そして、ゴブリン以外にも、一部にはオークやその他の魔物…さらには、人間たちの姿も見える。


 様々な地方から、これだけの大軍勢が、この地に集まってくれたのだ。


 頂上に立つわたしの姿を認めたのか、麓に集結した者たちの興奮度が一気に高まる。そして、一斉に声を上げた。


「大ハーン、バンザイ!」

「リリ様に栄光あれ!!」

「リリ・ハーン、ばんざーい!!」

「大ハーン! 万歳!」

「インペラトル! リリ!」

「大カアン、リリ様!」

五分厘ゴブリン単于ぜんう、万歳!」


 一斉に上がった歓声が大地を揺るがす。

 掛け声は様々だが、いずれも、わたしが、この大陸のゴブリン部族全てを統べる、大ハーンに推戴された事を称えるものだ。

 全てが、大ハーンとなったわたしに向けられた歓声なのだ。


 声に応じて、わたしが山の上から手を上げると、歓声がひときわ高まった。


 これまで、大陸各地で部族毎に分かれ、身勝手な略奪や不毛な氏族間争い、内紛で、互いに消耗していただけのゴブリンたち。

 しかし、これからは違う。ゴブリンたち全体が纏まった、一つの大きな力となった。一つの群れに組織され、統制された狩猟者となったわたしたちの力は、外部へ……大陸全土を狩場として駆け巡り、平らげるために使われるのだ。


 このヘルシラント山の麓に集結した、大陸各地のゴブリンたち。彼らを中心とした、幾万もの軍勢。

 この軍勢がどこに向かうのか。それは……大ハーンであるわたしの意思で決まるのだ。


 彼らの征き先。それは、最終的にはこの大陸の果てまで。しかし、最初に軍を向ける先は、決まっている。

 わたしは山の上から、その方向を指し示した。


 それを見て、興奮、そして歓声が、最高潮に高まる。

 気の早い者たちが、わたしが指し示した方向に駆けだしている。

 麓に集結した者達が、大軍勢が次第に一つの波となって、動き出しつつあった。


 ……………


 わたしは、大ハーン。

 この大陸に、我々ゴブリンたちの時代をもたらすために。

 わたしを信じ、従ってくれた者達に、安定と繁栄を。そして、これから数百年の安寧をもたらすために。



 さあ……大遠征の、始まりだ。

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