逆境から始める見習い冒険者

たらも

第1話

河原で石を探す。

まず必要なのは武器だ。

体はこれから鍛えるが、時間がかかる。

手取り早く強くなるには、まず武器だ。

10歳の男の子とは思えない、厳しい表情でラナは石を探している。


(まずは、ナイフだ)


掌サイズの平べったい石を見つけた。

加工も簡単そうだ。

作業する為に見つけておいた、テーブル代わりの平たい石の上に載せて形を整えていく。

丸い硬い石で叩いて尖らせる。


(思ったより大変だな)


一心不乱に叩いて形を整えて、出来上がった石のナイフ。

笹で包んで皮袋に入れた。

夕方になったので、今日はこれで終わりにする。

帰らないと家族に心配されるだろう。

少しでも身体を鍛える為に走って帰る。

ラナのステータスはまだまだ低い。


管理者の所で見せてもらったステータスでは、12歳時点で


力:6 体力:6 知力:14 速さ:7 魔力:0


20歳までは年齢と同数くらいが平均値になるのでラナはひ弱だった。

今は10歳に戻っているのでもっと低いだろう。


家に帰ると、やはりお婆ちゃんが心配したように家の前でキョロキョロしていた。

ラナは耳が聞こえないので、基本的に家族には心配かけてばかりだ。

ラナを見つけると安心したようで笑顔で手を振ってくれる。

ラナも笑顔で応え、手を繋いで家へと入った。


家族との暖かな夕食を終え、自分の部屋に行く。

早速、拾った重い石を上げたり下げたりして鍛えていく。

ラナは10回でへばった。

腹筋を鍛えるべく、寝て上半身を素早く起こすを繰り返す。

5回しか出来なかった。

ラナはひ弱な子なのだ。


(こんなにダメだったのか、僕。まぁ良いや、まだ時間はある。)


立ち座り立ち…足を鍛える。

20回出来た!

へばったラナはそのまま倒れ込んで寝てしまった。


「ふぁ〜〜あ」


床で寝てしまったので体が痛い。

筋肉痛もありそうだ。

ラナはそれでも起き出して、朝の仕事をこなしに行く。

壷から水を救い、顔を洗って口を濯ぐ。

もう殆ど残っていない、この水瓶をいっぱいにしなくては。


(5往復くらいで行けるかな?)


ラナは桶を持って小川まで走る。

途中、同じく水を掬いに行く子供とすれ違った。

ラナを指してバカにしているような事を言っているのだろうが、聞こえないから無視だ。


(聞こえないもん)


ちょっと傷つくけど、いつもの事と心を強く持って走る。

幼馴染と約束したのだ。

もうバカにされても俯かないと。

約束するのは2年後だけど。

走るのも訓練だ。

いつもは歩いてたけど、時間は無駄に出来ない。

小川について水を掬う。


(重い。。。)

(こぼしちゃうから帰りは走れないけど、せめて速足で。バランス感覚の訓練にもなるから、いつかは走れるようにしよう!)


5往復こなすと、水瓶はいっぱいになった。

ラナはへばっている。

お母さんが、手振りで


『おつかれさま、ありがとうね』


と伝えてくれる。

僕はニコッと笑ってそれに応える。

今まで、ラナは外にはあまり出なかったのだ。

今日から、手伝いたいと伝えた時には皆んなに心配されたが、お父さんが


『ラナに任せよう』


と、優しく微笑みながら許してくれた。

朝ごはんを食べて、父と祖父は村領主の館に仕事をしに行く。

母と祖母は、畑に行くので手伝いにラナも同行する。

雑草を抜いたり、虫を取ったりしながら午前が終わる。


そして、自由時間の午後だ。

ひとりで森に行くのは危ないから禁止されているが、ちょっと浅い所に行くだけだ。

見つからなければ大丈夫だろう。

前回は従兄弟のロキや幼馴染のリアとも入ったし。

手頃な棒を探す。

今日は石斧を作るつもりだ。

あとは杖になりそうな丈夫な枝を見つけて河原に向かう。

斧の刃の部分に成りそうな石を見つけ、昨日と同じように作っていく。


(少し慣れたのかな? 昨日より早く出来る!)


ちょっとだけ成長を実感した。

川辺に生えている蔦を石のナイフで斬り、拾った棒と整形した石を括り付けた。


(石斧完成!)


今のラナの装備は

武器:石斧、杖、石のナイフ

頭:無し

体:布の貫頭衣

手:無し

足:草鞋

持物:布の袋


防御力など、ほぼ無い。

そちらは、また考えるとして、明日は弓を作ろう。

走って家に帰った。


この世界は1日、2食が基本だ。

3食なんて、村では無理だ。

貴重な栄養補給の場でもある、夕食時に父が


『ラナ、食べ終わったら文字の勉強をしよう』


と手で知らせてきた。

聞こえないラナの為に両親が考えた手の言葉だ。


『文字、もう書けるよ』


と、ラナは手で答えると


『まだまだ、文章読めないだろ?』


と返されてしまったが、ラナは2年後から戻って来ているのだ。

囲炉裏の灰にスラスラと字を書いていく。


そして、最後に


"みんな、いつも有難う"と書いた。


母と祖母は読めないが、目頭を押さえた祖父が読んであげたら、2人とも泣いていた。

その日はみんなで泣いた。


次の日、日課をこなしたラナは竹林に来た。

手頃な竹を切って弓にする為に。

丁度良さそうな竹を、石斧で切る。

ベキっと音がして、折れるが綺麗には切れない。

なんとか切って、弓の長さにした。

どうやって、蔦を張ろうかと考えて、上下に切れ込みを入れた。

なんとか石のナイフで切れ込みを入れ、少ししならせてから、蔦を張る。

不恰好だが、完成だ。

余った竹を矢の代わりに番えて、飛ばしてみる。

2メートルくらい飛んだ。


(これはダメだ。)


弓はちゃんとした道具と作り方を教わらないとダメだと分かり、ひとまず諦めた。


(離れた所から攻撃するなら、石を投げた方が良いのかも)

(ちゃんと当てる為にも、練習だな)


手頃な石を集めて、皮の袋に入れた。

ラナは石礫×10を手に入れた。


ラナは必死で考える。

強くなる為に。

あの日、1度死んでしまったあの日を繰り返さないように。

幼馴染を救う為に。

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