備忘録
もうすぐであの日から三年が経つので、忘れないように書いていく。
あの日から半年経ったある春の日、俺は夢を見た。その夢の中で俺は、神さまの視点にいる。身体の感覚はなく、俯瞰した視線だけがあるイメージ。その視線の先には、もう一人の俺が居た。その周りにも他に何人か居た様な気がする。すると俺はいきなり、その中の一人に暴言を吐いた。内容は分からないけれど、暴言だということだけは理解できた。その様子を見て、俺(これは神さま視点の俺)は、あの自分を殺したい、とそう思った。途端、視線だけだった俺は実体を持ち、もう一人の俺の前へと勇み出た。そして、目の前の俺をあらぬ限りの力でぶん殴った。殴られた俺はよろめく。すかさず押し倒して、馬乗りの状態になる。殴られた俺は少しも抵抗することなく、ただひたすらにこちらを見つめていた。それにまた苛ついて、俺は一方的に俺を殴り続ける。こいつを殺してやる、という気持ちだけが拳を動かしていた。それでも、奴は動じない。ずっと、ずっと、目を合わせ続けてくる。恐ろしくなった。「こっちを見ろよ」と叫んで、俺は俺の眼鏡を無理矢理奪って投げ飛ばす。裸眼でこちらを見つめている。最初からずっと、そこに感情の色なんてなかった。俺はまた殴り始める。いつの間にか、俺は泣きながら俺を殴っていた。涙がボロボロと、殴られる俺の顔へと落ちていく。それでも殴り続けた。殺してやるという気持ちは変わらなかった。そのままずっと、ずっとずっと、俺は俺を殴っていた。
いつの間にか目が覚めていた。それが夢だと気づいた時、ある感情が胸を衝いた。それは「嬉しさ」というものだった。あの夢と、あの感情だけは、決して忘れてはいけない。
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