7.勇者ジャスティスの愉悦(勇者サイドストーリー)

 俺の名は、勇者ジャスティス。

 過酷だった『勇者選抜レース』を勝ち抜き、『カントール王国』の正式な勇者として認定された。


 まぁ俺の実力を持ってすれば当然だ。

 本当は、もっと早くレースを勝ち抜くことができたんだ。

 あの役立たずがいたお陰で、とんだ遠回りだぜ。


 だがまぁ、それはもういいだろう。

 あいつは追放してやった。


 本当に癇にさわる奴だった。


 ……なんであんな奴が、加護を二つも持っているんだ?


 おまけに一つは、十神教の主神であるテラス様の加護だ。

 それなのに……あの体たらく……。

 本当に、役に立たない奴だった。

 どうも神様にも、多少の手違いはあるようだ。


 そもそも、あいつの加護よりも、俺の称号の方が上だ。

 俺には、『勇者の可能性』という特別な称号がある。


 まぁその称号を持った三人が選抜レースをしたわけだが、勝ち残った俺に、正式な『勇者』の称号がつくはずだ。


 まだ付いていないが、まぁ神様も忙しいのだろう。


 ——バタンッ


 ん、誰だ? 

 勝手に俺の部屋に入って来る奴がいるとは。


「なんであなたは、ヤマト先輩を追放したんですか!? ヤマト先輩のスキルのおかげで、勝ち残れたのではないんですか!?」


 なんだこいつ。

 勇者である俺に、いきなり文句を言ってくるとは、いい度胸だ。

 ん、……この女確か……


「お前は、サポートメンバーの女じゃないか。いきなり何言ってんだ、いい度胸だな!」


「“サポートメンバーの女”じゃない。ラッシュという名前があります! ほんと相変わらず最低ですね」


「何だと! 貴様、たかがサポートメンバーの分際で、勇者である俺にそんな口を聞いて、ただで済むと思ってるのか!?」


「……何が勇者よ! ヤマト先輩を追放して、今までみたいに戦えると、本気で思っているんですか!?」


「なんだと! こ、このやろう。お前、この場で死にたいようだなぁ」


「勇者が刃傷沙汰とは……いただけませんね……」


「今度は誰だ!? ……お前は……クラウディア……。何しに来たんだ?」


 『勇者選定機構』のスカウターであるこの女は、前から気に食わなかった。

 あの使えないクズのヤマトを見つけてきた張本人だからな。

 加護や固有スキルだけで判断して、スカウトするとは、全く使えねぇ馬鹿女だぜ。

 まぁ使えない奴が、使えない奴をスカウトするのは、理にかなった話だ……ふふ、まったく笑えない冗談だぜ。


「相変わらず……あなたは目上の者に対する口の利き方も知らないのね」


「ふん、何言ってるんだ。俺は勇者だぞ! 貴族の令嬢だからって、偉そうな口を利くんじゃねー! 俺の方が立場が上だ! 口の利き方に気をつけるんだな!」


「その勇者様に、誰のおかげでなれたと思ってるのかしら? ラッシュが言ったように、ヤマトくんなしで今まで通り戦えると思っているの?」


「はぁ? あいつなんかお荷物以外の何物でもねーだろ! スキルでちょっとダメージを肩代わりしたくらいで、なんだってんだ! 今まで通り戦えるかだ? ハハハ、笑わせてくれるぜ、足手まといがいなくなって、より快適に戦えるってもんだ!」


「やっぱり……全くわかってないみたいね。あなたみたいな人間が、正式な勇者になっちゃって……この国もやばいかもね。魔王が現れる前に、なくなっちゃうかも……」


「なんだと! お前も、この場で死にたいみたいだな」


「ほんとに……あなたのパーティーに、ヤマトくんが配属になったことが悔やまれるわ。長官の最大の失策ね」


「ふん、お前もスカウターなら、正当にヤマトを評価したらどうだ?」


「正当に評価できてないのは、どっちかしら?」


「ふん、いちいち癪に触る奴だなぁ……。もうお前はクビだ!」


「あなたに、私をクビにする権限なんてあるのかしら?」


「俺は、正式な勇者だぞ! 『勇者選定機構』の長官も、宰相も、国王も、俺の進言なら聞く。お前はもう終わりなんだよ!」


「あっそ、じゃあ、とっととクビにしたら」


「私も、あなたのためにサポート部隊で働くつもりなんてないから、一緒にクビにしてください!」


「ふん、いいだろう。クラウディア、そして亜人の女、お前もまとめてクビだ! ハハハ、いいことを思いついたぞ。俺はなんて優しいんだ……最後に一つプレゼントしてやろう。お前たちの大好きなヤマトに会えるように、お前たちも追放だ! 今すぐ『北端魔境』送りにしてやる!」


「……勝手にしたら?」

「そうです。勝手にしてください」


「ハハハ、お前ら……できないと思ってんのか……? 残念だな、俺は本気だぞ! 望み通りそうしてやる。このまま送りつけてやる! すぐにでもヤマトに会えるだろう。まぁあいつが、まだ生きてればの話だがな。ハハハハハハ」


 馬鹿な女どもだ……俺に楯突いたことを後悔させてやる。


「おい、兵士たち、こいつらを拘束して俺についてこい」


「「はい」」


 長官に転移門を起動させて、こいつらをすぐに放り込んでやる!


 ふふ、本当に馬鹿な奴らだ。

 抵抗することもなく、兵士に拘束されてる。

 ほんとに送られるとは、夢にも思っていないのだろう。

 こいつらを転移門に放り込むときの、絶望する顔が見ものだぜ。


「長官、いるか?」


「これは、勇者殿。おや……その二人は……? 一体どういう?」


「こいつらは、俺に楯突いたんだ。今すぐクビにして『北端魔境』送りにする!」


「え、……しかし……一応、宰相閣下や国王陛下に報告を上げないと……」


「おい、お前はバカなのか!? こいつら二人の管轄は、『勇者選定機構』だろうが! その長官のお前の判断でクビにすればいいんだよ! こいつらはヤマトに会いたいみたいだから、俺は優しさで『北端魔境』送りにしろと言っているんだ!」


「しかし……亜人の女はともかく……クラウディアは……一応、伯爵令嬢ですぞ……」


「だからなんだ! そんなの知ったことか! 令嬢ならそれらしく、社交でもしながら静かに暮らしていれば良いものを。わざわざ国家機関で働いてる方が悪い。令嬢という立場など関係なく、機関の人間として処分されるのは当然だ!」


「しかし……それでは後で、伯爵家が疑義を申し立ててくるのが確実かと……」


「勇者ジャスティスの意思だと言ってやれ! それに歯向かうならば、国家反逆罪になると脅してやれ!」


「……わかりました」


「よし、じゃあ行くぞ」


 ふん、このまま転移門に放り込んでやる。



「お前ら、着いたぞ。これが転移門だ。この先は、もう『北端魔境』。まだ生きていたなら、ヤマトに会えるだろう。まぁ会えたとしても、一緒にいれるのは数日だろうがな。ハハハハハハ。どうだ? ほんとに送られるとは思わなかったろう? 馬鹿め! 今更泣き付いても遅いからな」


「ほんとに、あなたは最低ですわね」

「あんたのサポートするくらいなら、『北端魔境』で死んだほうがマシです!」


「ハハハハハハ、わかった。じゃあ、お前らは死んでこい! ほらよ!」



 全く馬鹿な奴らだぜ……悲鳴を上げる間もなく、俺に転移門に放り込まれた。


 あー、いい気分だ。


 そうだなぁ……こうやって、邪魔者、目障りな奴を、どんどんいなくしてしまえばいいんだ!

 『北端魔境』送りにすればいい! ハハハハハハ。


 『北端魔境』……さしずめゴミ人間を送るゴミ箱だな。

 ハハハハハ、本当にいい気分だ。


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