5.天啓と天恵

 ぐっ……、もう武器もない。

 蹴りを食って、多分内臓がやられている。

 ……まともに呼吸もできない。

 目が霞む……鹿魔物がゆっくり近づいて来ている。


 ……ここで終わってしまうのか……?

 こんなところで……


 ……もう何も見えない……俺は死んだのか……?


 ————愛し子よ、生きたいですか?


 なんだ!?

 声が聞こえる。

 暗闇の中に、声だけが響く……


 ————私の大事な愛し子よ、生きたいですか?


 ……何を言っているんだ?

 俺は死んだんじゃないのか……?


 ————加護を授けし愛し子よ、生きたいですか?


 え、“加護を授けし”……?

 この声ってもしかして……神様なのか?


「あなたは……神様……もしや『日曜にちよう神テラス』様ですか?」


 ————私はテラス……愛し子よ、生きたいですか?


 やはりテラス様……。


「私は死んだのではないのですか? ……い、生きたいです! 生きれるものなら、生きたいです! こんな死に方は嫌です!」


 ————私の愛し子よ、生きなさい。生きる未来を強く思い描くのです。それだけで生きる力が現れます。


「……生きる未来……? 

 ………………。

 ………………。

 ………………。

 ……生きる……俺は、生きる! 

 ……人生を謳歌する! 

 ……人生を楽しむ、楽しむんだぁぁぁ!」


 テラス様の啓示を受け、生きる未来に思いを馳せると、自然と言葉が出て叫んでいた。


 ————今、加護の力が解放されます。

 ————あなたの光に惹かれて、あなたを慕い愛する命が多く集まるでしょう。

 ————私があなたを愛するように、あなたはその者たちを愛することができますか?


「……はい。その者たちを愛します」


 ————どう愛するのですか?


「……私を慕って、集まってくれるなら……家族として大切にします! 愛で満たします!」


 ————ふふ、良いでしょう。

 ————それでは、あなたは人々を照らす光となりなさい。聖者の道を歩むのです。


「……光? ……聖者? ……はい、分りました」


 ————それでは、あなたに連なる命の繋がり……“家族”を守る力と癒す力を授けます。

 ————私の大事な愛し子よ、生きなさい。自由に生きなさい。


 ………………。


 声が消えた。


 ……暗闇が、うっすら明るくなってきた。


 俺の目が、開こうとしているのか……?


 ぼんやりと視界が戻ってくる。

 ……あれは……鹿の魔物……?

 視界が消えてしまう前に見たのと同じ光景だ。

 おそらく時間的には、ほとんど経っていないのだろう。

 今の神様との会話は、瞬く間の出来事だったらしい。


 鹿魔物が近づいてくる。

 とどめを刺しにくるんだ。

 いや獲物を食いに来るんだ。


 ……だが、わかる。

 俺は、死なない。

 死ぬのは、あいつだ。


 神様は、本当に俺に力をくれたようだ。

 セルフステータスを確認するまでもなく、スキルを取得しているのがわかる。感じるのだ。


 俺は、何とか体に力を入れて、右手の人差し指を鹿魔物に向ける。


「ソーラーレイ」


 声を振り絞り、発動真言コマンドワードを唱える。


 ——ビュンッ

 ——ドサッ


 一瞬だった。

 大きな音とともに、鹿魔物が倒れている。


 俺の指先から発射された光線が、奴の体を貫通したのだ。

 胸に当たり、心臓ごと貫いたようだ。


 ……すごい威力だ。


 ……ふう……さしあたっての命の危険はなくなったが……まだ意識が朦朧としている。


 もう一つ……授かったスキルがある。


「光の癒し手」


 俺は、右手を自分に向け、発動真言コマンドワードを唱えた。


 回復の魔法だ。


 ……だんだん意識がはっきりしてきた。

 瞬く間に回復したのだ。

 この回復魔法の威力もすごい。


 改めて状況を確認すると……巨大な鹿魔物が、俺の前方に横たわっている。


 完全に倒せている。


 そして今かけた回復魔法で、俺自身も完全に回復している。


 本当に、神様が生きるための力を授けてくれたのだ。


 自分のステータスを確認してみよう。


 まずは『基本ステータス』からだ。


【基本ステータス】


【種族】人族

【名称】ヤマト

【性別】男性

【年齢】十八歳

【職業】———

【状態】

【レベル】33


【身体力(HP)】430

【スタミナ力】290

【気力】330

【魔力(MP)】350



 ……レベル30だったはずだが、今の戦闘だけで3つも上がっている。

 やはりこの鹿魔物は、俺が思っていたよりもレベルが高かったみたいだ。

 レベルの上がり方から見て、鹿魔物のレベルは……40以上は確実だ。

 レベル50以上かもしれない。


 死んでもおかしくないというか……普通なら俺が死んでいて当然の相手だったということだろう。


 次に、『サブステータス』と『特殊ステータス』も確認しておく。



【サブステータス】


【攻撃力】30

【防御力】43

【魔法攻撃力】35

【魔法防御力】30

【知力】33

【器用】35

【速度】39



【特殊ステータス】


【称号】『光の聖者』

【加護】『献身による加護』『日曜にちよう神テラスの加護』

【通常スキル】

『光魔法——太陽光線ソーラーレイLV.1』

『光魔法——光の癒し手LV.1」

【固有スキル】

『献身LV.2』



 ……『称号』に『光の聖者』というのが付いている。

 テラス様が聖者の道を歩めと言っていたが……具体的に何をしたらいいのか、全くわからない。


 それから『通常スキル』に、『光魔法』が二つ発現している。

 これが、テラス様が与えてくださった力だ。


 魔法スキルを発現すること自体、貴重なことであるが、『光魔法』は更に稀なスキルなのである。

 魔法スキルは、四属性と言われている『火魔法』『水魔法』『風魔法』『土魔法』が一般的だ。

『光魔法』や『闇魔法』は、極めて貴重な魔法なのである。


 それぞれのスキルに焦点を当て、詳細表示と念じると簡単なスキル説明が見れる。


 『光魔法——太陽光線ソーラーレイ』は、指先から収束した太陽光線を発射できる技能で、スキルレベルが上がるとやれることが増えるようだ。

 出す光線の幅や威力などは、念じて調整するらしい。

 多分感覚的なものなのだろう。


 『光魔法——光の癒し手』は、怪我などの回復つまり『身体力(HP)』の回復だけではなく、『スタミナ力』や様々な状態異常も治せるみたいだ。


 一番驚いたのは、この二つの『光魔法』が、『究極級アルティメット』の『光魔法』だったことだ。


 魔法スキル自体、発現する者の少ないスキルであるが、発現しても、普通は『下級イージー魔法』か『中級ミドル魔法』がほとんどで、『上級ハイ魔法』を使える者はごくわずかである。

 その上の『極上級プライム魔法』を使える者などまずいない。

 俺が取得したのは、その更に上の『究極級アルティメット魔法』なのである。

 もはや……おとぎ話の世界に近い。


 いきなりそんな魔法を、二つも手に入れてしまった。

 しかも、攻撃と回復という生きるために必要な大きな力である。


 俺は、心の中で改めて、テラス様に感謝の祈りを捧げた。


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