地雷系女子の推し活〜せっかく乙女ゲームの中に来れたので画面の中のあなたに✕✕したい〜
一葉
前編
「マティアスさまぁ♡」
薄暗い部屋の中、色気の混じった甘ったるい声を発するのは一人の女性。
まるで泣きはらしたような赤い目元に病気なのかと疑うほどに血色感のない色白の肌、口に塗られた真っ赤なリップ。
そう、この女性は容姿からも分かるようにいわゆる地雷系女子というやつだった。
「今日も尊い……大好きだよ、マティアスさまっ」
そして、そんな女性に好かれる人物はマティアス・アインハルト。少しマニアックな乙女ゲームのキャラクターの一人で、王国の第3王子である。
そしてマティアスは同時に国立学院の生徒。兄弟の中でも末っ子であり少し引け目な性格をしているが、クラスメイトであり、想いを寄せている主人公(ヒロイン)に危機が迫っているときには真っ先に手を差し伸べる、男らしさがある。
「わたしも、このマティアスさまと同じ世界で暮らせて、同じ空気を吸えたらなぁ」
女性は、日々そんな妄想を繰り返す。
叶わぬと知りながら、それでも一途に想い続け、今日も願うのである。
「マティアスさまぁ……♡」
ハートの目をしながらそんな声を漏らす女性は、画面の中に映るキラキラとした笑顔で微笑むマティアスをずっと見つめ、恍惚としていた。
◇◇◇◇◇
「……んんっ」
気の抜けた声と共に、女性は目を覚ました。
「おはよう、マティアスさま……っ」
少し服をはだけさせたマティアス様の抱き枕に対して挨拶を掛ける。いや、正確には挨拶を掛けようとした。
「…………な、ない?」
そう、いつも大切に抱いているマティアスの抱き枕が手から消えていたのだ。
まさかの自体にバッと勢いよく布団から出る。
自分の愛している人物が近くにいない、そんな事実にまるでこの世の終わりのような顔をしている。
「……うっ、ま、まぶしい」
布団から出た瞬間、差し込んできた光に目が眩む。
カーテンは閉めて寝たはず……と、訝しんでいるところで、自身に起こっている異変に気付く。
「こ、これ……って」
何かを察した様子の女性。
「……──乙女ゲームの、世界……?」
装飾のついた豪華なキングサイズのベッドに元の自分の部屋の何倍もある大きさの部屋、側の棚の上にはヒロインがマティアスからもらった小物の数々。
女性は乙女ゲームを何十周と繰り返しプレイしこの景色を何度も見ていたからこそすぐに気付く。
ここはマティアスのいる世界にいて、わたしはそんなマティアスに愛されるヒロインになっているのだと。
「もしかしたらまだ目覚めてなんていなくて、夢かもしれない……けど、夢でもマティアスさまと一緒に学校生活を送れるのなら……っ」
ニコッと満面の笑みを浮かべる。
まさかの事態に少し混乱する女性だったが、それ以上に喜びを隠せない彼女であった。
◇◇◇◇◇
「……けど、学校かぁ……」
ぽつりと小さくつぶやく。
そう、マティアスに会うには学院に行く必要があった。
……だが。
女性は中学2年生のころにいじめに合って以来不登校であり、学校には少しトラウマがあった。そのために足が固まってしまう女性である。
「…………ん?」
日付が目につく。
カレンダーに記された文字は7月23日。それは休日であり特別な日。
ヒロイン……今は地雷系な彼女、ということになるのだが、その人物の誕生日なのだ。もちろんそれを知らない彼女ではない、それどころか誕生日にどんなイベントが起こるのかすら把握していた。
「確か、マティアスさまが家に来る日だったよね……っ!」
誕生日イベントの起こる日。これなら、学校に行かずとも推しに会えるわけだ。
やったぁ……っ!
その事実を知り、喜びをかみしめる彼女だった。
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