おいしい・アプリ・年間パスポート

「えっと。多分招待されてると思うんですけど……」


 そう言ったものの招待状みたいなものをつとむさんから受け取ってはいない。


神楽かぐらの者です」


 隆司りゅうじくんが急にしっかりとした口調でそう口にすると、向こうもそれで察してくれたみたいでなにかに納得している。

 神楽は確か勉さんに性であったはず。


「あー。君が隆司くん?勉さんから聞いてるよ。楽しみにしてくれてたんだよね」


 隆司くんの目線まで腰をかがめて話しかけるお姉さんは子ども好きなのか丁寧に対応してくれている。


「うん!でも、ちょっとキタナイね!」


 元気いっぱいで失礼なことを言ってしまっている隆司くんに対しても笑ったままだ。


「まあね。しかたないんだ。隆司くんが年間パスポートでも買ってくれたらちょっとはキレイになるんだけどね」


 とんでもないことを子どもに吹き込み始めておいおいと止めに入ろうとするが、その余地はなく。


「じゃあ。案内しますねー」


 そう言うと隆司くんと氷姫ひめの手を取るとどんどんと先に進んでいってしまう。おいていかれないようについていく。入り口をくぐっても建物の雰囲気は変わらなかった。


「みんなは特別席だからねー。迫力あるよー」


 そう案内されたのはステージから一番近い席だ。近いと言ってもそもそもが広い場所ではないのだけれど。その中でも最も前ともなると確かに迫力がすごそうだ。


「もうちょっとで始まるから。おいしいポプコーンでも食べてまっててねー」


 映画館じゃないと思うのだけれど。それでいいのだろうか。と、思うまもなくふたりは喜びながらポップコーンに手を伸ばしている。ま、美味しそうだからいいかと思いつつも勉さんの顔がちらつく。あんまり甘やかさないほうがいいのだけれど。好意を無下にもできない。


「この物語のゲームもあるから。あとでアプリもダウンロードしてみてくださいね」


 そう言い残して去っていくのを見送るとふたりのとなりに座る。それに気にする様子もない。ふたりを見て大きく息が漏れた。それはたすくの疲れを現しているように思えて。もう一度、大きく息を吸って大きく吐いた。

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