引退・手作り・公園
「引退したと思っていたのだけれどね。まだいたんだね。噂のキス魔」
スッとひとりが一歩前に踏み出して泣いている女性に近づく。
「襲ってきた人は、20代前半くらいで背はそんなに高くなくてちょっとだけ太っているひげ面の男性で間違いない?」
流れるようにそばにかがみこむとのぞき込むように女性に話しかけるその図は不謹慎だけど絵になった。
こくこくと頷く女性に声を掛けた男性はなにかに納得したように見えた。
「だれなんだよ。そのキス魔」
「少し前に話題になったの知らないのか?まあ、そうか語り部が犯人なんだ。そもそもニュース自体の露出が少なかった気がするね。関係者以外は知らなくても無理はないか。語り部としての媒体がマイクであるのと、あとは先ほどの特徴くらいしか情報がない愉快犯だ。アイドルに興味があるみたいでその周辺に事件が起きることくらいしか関連性もない。場所もばらばらホール近くの公園だったり駅だったり」
そこまで話してもらってようやく昨日の衣装泥棒と人物像が重なる。
「その人なら昨日もみました。マイクを使ってアイドルに変身できるみたいです」
「それは随分と変態みたいだな。変身できるとなるとこの中に居てもおかしくないってことか?」
売れ残りの若手俳優は見定めるように辺りをくるっと見渡す。
「えっ。怖い」
誰かがその言葉を発したのを起因してざわつき始める。よくない状況。犯人がこの中に居たら思うつぼなのかもしれない。
「ねえ。その衣装なんで手作りなの?」
しかし、そう夏希が指摘した瞬間、その場の空気が変わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます