野郎・ラブレター・アドリブ

「あぁんっ?どこのどいつが最終兵器だって?そんな野郎の訳ないだろうが。どこに目つけてるんだ」


 みんなに頼られるような話をしていたから大臣とは温和で人当たりのよい人なのだと勝手に勘違いしていたのがいけなかったのだが、それにしたってこうも口が悪いと萎縮してしまう。


 白髪が目立っているがその毛質は若々しく、オールバックのその姿は獅子を彷彿とさせる。大臣と呼ばれる人のところまできたのはいいが、ほんとに頼れるのか分からない展開になっていた。


「えっ。でもこの人が最終兵器だって黄昏書店の店員さんが言ってったもん!」


 負けじと返すかえでも大したものだと思うくらいには大臣に迫力がある。楓もたじろぎつつの必死の反抗だ。確かにつとむさんに言われるがままに連れてきたのは確かだけれど、たすく自身は違うと言い張っていたのだから、責任がないわけじゃない。


「こんな野郎が最終兵器なわきゃぁないんだよ。最終兵器ってのは最終兵器だから最終兵器って言うんだ。この野郎が最終兵器に見えるか?」


 最終兵器がゲシュタルト崩壊していく。


「こいつにラブレターのひとつでもやりたくなるか?ならんだろ?つまりはそういうことだ。使えない野郎捕まえてくる暇があったら、さっさと口裂け女でも捕まえて来いよ。そうすれば退治してやるから」


「大臣さんは語り部なんですか?」


 楓が隣で不思議そうな顔をしている。語り部って?と小さく呟いている辺、もしかしたら物語の力のことを知らないで捜査しているのか。


「ああ。野郎は野郎でも他人が想像した力を利用して強くなって気でいやがるくそ野郎だったか。よしっ。今すぐ出てけ。そして自分の街へ帰るんだな」


 そう吐き捨てるように言い放つとどこかへ行ってしまった。屋敷と呼んでも差し支えない大きさのその玄関口に取り残されてしまって完全に行き場を失う。


「ねえ。なんであんなに大臣怒ってたのさ。そんなに最終兵器が来るのを楽しみにしてたとかなの?」

「さあ。私にだってわからないわよ。それにしてもアドリブきかないのね。もっと最終兵器らしくすれば信じてもらえたかもしれないじゃない」


 そんなことを言われても最終兵器とはだれなのかわからない以上。なりきることも出来ないというものだ。


「とりあえず。今日のところは歩き回るしかなさそうね。行きましょ」


 切り替えが早いのかなんなのか。楓は歩き始めた。

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