―30― ダンジョンボス

 ジョナスはこの町では一番の実力者だと知られており、他の冒険者たちからも尊敬されている。

 そのジョナスは20名ほどの冒険者たちを募って、新しくできた未知のダンジョンへの攻略へと向かった。

 しかし、ダンジョンに入ると他の冒険者たちと隔離されてしまい、ソロでの行動を余儀なくされた。

 ジョナスは大剣使いのため、ソロでも不便なく進むことができたが、回復職といった後衛のジョブ持ちならキツいだろうと思いながら、先へと進んだ。

 そして、5層に進んだところで、合流地点へとたどり着いた。

 すでに、何人か冒険者たちがすでに着いていたようで、合流できたことに安堵する。

 それから、しばらく経って、他の冒険者がたどり着くのを持っていた。

 中には負傷していたものもいたので、そういった者たちには、回復薬を飲ませて安静にしておいた。

 さて、問題なのが、この合流地点にはゲートが二つあるということだった。

 どちらかがダンジョンの外に出るゲートで、もう一方がボスの部屋であろうことは皆の総意だった。

 ここにずっと残っているわけにいかないないので、いずれはどちらかにくぐる必要がある。


「全員で、一つのゲートをくぐるべきじゃないですか?」


 冒険者の一人がそう意見を口にした。


「確かにそうだな……」


 全員で行ったほうが、ボスと遭遇した場合全員で挑めるため、その分生存率があがる。

 もし、ダンジョンの外にでたなら、それはそれで問題解決だ。


「リスクヘッジを考えるなら二手にわかれるべきだと思いますが」


 その意見も一理あった。

 もし、全員でボスに挑んで全滅した場合、どちらのゲートがボスに続くのかギルドに報告できる者が誰もいなくなる。

 それなら二手に別れて、片方のグループが必ず生き延びるようにすれば、どちらのゲートがボスにたどり着くのか確実にギルドに伝えることができる。

 ただし、半分にグループを分けるため、ボスに勝てる可能性はその分低くなるが。


「よしっ、二手に別れていくぞ」


 熟考の末、ジョナスはそう結論を出した。

 冒険者が必ず生き残り、どちらのゲートが外に出るかをギルドに報告することを最優先に考えたのだ。


「もうそろそろ、潮時だな」


 ダンジョンに潜った全員がこの合流地点にたどり着いたわけではなかった。

 だが、水も食料も大した準備をしていないのに、ここに大勢が居座るわけにはいかない。

 なので、これから冒険者がこの安全地帯にやってくる可能性を想定して、一人だけここに置いていくことにして、他はゲートの奥に進むことに決める。

 残る一人には、できる限りの食料を渡し、再びここに戻ってくることを約束する。

 それと、フードをかぶった少女もこの中継地点に残ることを主張した。

 どうやら、自分の主人がまだここにたどり着いていないらしい。

 確か、こいつの主人はあのレベル1の冒険者だったな。

 直接、指摘するのはためらわれたが、恐らくあの冒険者は死亡したに違いない。レベル1の冒険者がソロでここまでたどり着けるはずがなかった。


「それじゃ、いくぞ」


 できるかぎり戦力が均衡になるよう二つのグループにわけてから、号令を出す。

 そして、二つのグループはそれぞれのゲートに飛び込んだ。





「まさか、外れを引くとはな」


 入って早々、ボスのいる部屋に来てしまったことがわかった。


「しかも、想像以上につえーなぁ、おい」


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


子鬼ノ王ゴブリン・キング

 LV:978


 子鬼ゴブリンの親玉。

 巨大な肉体を持ち、その豪腕は巨大な棍棒を振り回す。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 目の前には、体長3メートルを優に超えるモンスターが。

 レベルは978と、今までジョナスが戦ってきたどのモンスターよりも強い。

 完全に想定外だ。

 ここに来るまでの道中のモンスターはソロを強制されたとはいえ、大したことがないモンスターばかりだった。

 とはいえ、冒険者ごとに合流地点に行くまで必要な階層が違うらしく、ジョナスはわずか4層まで攻略するだけで合流地点にたどり着けたので、例えば10層まで攻略する必要があった冒険者なら、難易度に関してもっと違った感触を得たのかもしれない。

 ともかく、ジョナスにとって、これほどの強いモンスターがボスとして現れるのは想定外だった。


「みんな、ひるむな! 俺たちが協力すれば、必ず倒せるはずだ!」


 とはいえ、リーダーである自分が怖じ気づいたら全体の士気に関わる。自分を鼓舞するように、大声を出す。

 ジョナスと共にボスエリアをくぐった冒険者は全員で8名。

 それに、全員レベル100を超えている歴戦の冒険者たち。

 なので、決して敵わない相手ではない。


「〈ラッシュアタック〉!!」


 ジョナスはスキル名を口にしながら、子鬼ノ王ゴブリン・キングに突撃する。できるかぎり自分がヘイトを買うことで、他の冒険者に攻撃させる隙を作らせる。


「ぐっ!」


 大剣で子鬼ノ王ゴブリン・キングを攻撃するも、棍棒で受け止められる。

 重い……ッ。

 子鬼ノ王ゴブリン・キングの一撃は、あまりにも重く、大剣ごと吹き飛ばされるんじゃないかと思う。

 それでもなんとか耐え忍び、次の攻撃へと移る。

 カキン、カキン、と大剣と棍棒が何度も弾きあう。

 子鬼ノ王ゴブリン・キングの力は強いが、ジョナスだって負けてはいない。


「グヒッ」


 と一瞬、子鬼ノ王ゴブリン・キングが嫌らしい笑みを浮かべた。

 鋭い一撃が子鬼ノ王ゴブリン・キングにより振り払われる。

 ガンッ、となんとか大剣で受け止めるが、さっきまでの攻撃よりも一段と重い。

 まさか、さっきまでは手を抜いていたのか?

 そのことに気がついた瞬間には、ジョナスは後方へと吹き飛ばされた。


「ギャオッ!」


 吹き飛ばされたジョナスを子鬼ノ王ゴブリン・キングが見逃すはずがない。

 体勢を立て直す前に、再び攻撃しようと子鬼ノ王ゴブリン・キングはジョナスの元へと飛び込む。


「くそ……っ」


 すぐさま、大剣を持とうとするが、間に合わないことを悟り、思わず言葉を吐き捨てる。

 死んだな、そう思った瞬間――。

 ガンッ、と金属音がはじけ飛ぶ音がした。


「俺たちのことを忘れてもらっては困るぜ」

「ジョナスさん、あんたを俺より先にあの世に行かせねぇよ」

「ボブ! ジョン!」


 斧使いのボブと、大盾使いのジョン二人が迫ってきた子鬼ノ王ゴブリン・キングの棍棒を防いでいた。


「二人に守られるとは、俺もまだまだなようだな」


 そう言って、ジョナスは大剣を手に持ち立ち上がる。


「よしっ、全員であのモンスターを倒すぞ!」

「「おう!」」


 冒険者たちの士気が高まった瞬間だった。


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