第90話皇帝と皇女の期待を背負って
アルコス帝国の皇子らしいメーゼス皇子は大食堂に入って来るなり、俺たちを訝し気に見る。
「このような者たち信用に値しません。魔王復活阻止などという大任は務まるものですか」
どうやら俺たちはメーゼス皇子には信用されていないらしい。うーむ。厚遇してくれている皇帝や皇女にはなんだが、こちらの方が正常な反応に思える。
グラン・マドロックでもケチを付けて来た貴族がいたが、俺たちは冒険者パーティーに過ぎない。いくら王都を代表する二大ギルドの一つで最強と称えられているパーティーであったとしても、だ。
その冒険者たちに世界の命運がかかっている魔王の復活阻止を任せる事の方が少しおかしいという思いはある。
が、皇帝はそんな皇子に言った。
「メーゼス。こいつらは信用出来ると思う」
「何が根拠なのですか、お父様!?」
「勘だ」
勘って……。俺も思わず唖然としてしまう。皇子の方はもっと呆然とした顔になる。
「そのような勘などで……」
苦し紛れに皇子がこう言う。
「いや、馬鹿にならんもんだぞ。俺の勘は。それに加えてこいつらはいい目をしているよ。目は心を映す覗き窓だからな。綺麗な目をしている。濁った目をしている奴は一人もいない」
「それにお兄様。私の呪いも解呪してくれたわ。この帝国中の解呪師が匙を投げた呪いを」
「そ、それは……そうかもしれないが……」
皇帝だけではなく、メイルフェス皇女にも俺たちの擁護に回られ、皇子は押され気味になる。
「……ですがこのような平民などに」
「貴族、平民って偏った視点で物事を見るなと常日頃から俺はお前にも教えているはずだが? そんなものの見方をしていると真実も見えなくなるぞ」
言っている事を片っ端から封殺され皇子は悔し気に俯く。
俺たちはいきなり現れた冒険者パーティーにして、このアルコス帝国から見れば他国人だ。このように信用出来ないという人も出て来て無理はないと思うが、皇帝と皇女は俺たちに全幅の信頼を寄せてくれるようだった。
「聖者リックたちは信用出来るわ。お兄様」
「俺もこいつらに国の命運を、いや、世界の命運を預けて見たいと思う」
「そのような事を……」
まだ皇子は渋っているが、皇帝と皇女を翻意させる事は無理だと悟ったようだ。悔し気な顔で大食堂から出て行く。
それを見送り、皇帝が口を開く。
「さて、すまなかったな。我が愚息が」
「い、いえ。仕方がない事だと思っておりますので。いきなり現れて信用しろというのは……」
下手すれば頭でも下げかねない勢いで俺たちに謝罪して来た皇帝に俺が慌てて言葉を返し、気にしていない事を伝える。一国の主に頭を下げさせるなんて大ごとにも程がある。
「あいつはああ言ったが、俺としては聖者リック。お前を、お前とその仲間たちを信用している。あいつはまだ若いから分からないようだが、俺も皇帝なんて立場で長年いれば人を見る目くらいは養われる。お前たちは信頼に値する。俺がそう判断したんだ。誰にも文句は言わせない」
「そ、それはありがたい事です」
一国の皇帝からこれだけの信頼を受けるなんて凄い事ではないのか。そう思いつつ、頭を下げる。
「娘を任せたぞ。しっかり護衛してくれ」
「は、はい。は……?」
勢いで返事してしまったが、なんだか凄い事を言われたような。
「あの……やはり皇女様も魔王復活阻止に同行されるので?」
そのような事を言ってはいたが、本当に付いて来るのだろうか。一国の皇女が。いや、以前、シャーナル王国では王姪をシャーナル王国中を案内してもらい連れ歩いた事があるのだが。
「勿論よ。私が案内するって言ったでしょ」
「それを僕たちが護衛する訳ですか。よろしいので?」
流石にレオンも口を挟み、確認を取る。俺たちは他国の冒険者一行だ。それが良からぬ事を考えていれば皇女の身に危険が及ぶ事になる。
「よろしいも何も俺はお前たちを信用すると言っただろう」
そんなレオンの言葉も皇帝は一刀両断にする。自前の護衛隊や騎士団は出さず、俺たちだけに皇女を護衛させるつもりか。
そこまで信用されてしまうと何かと責任も感じてしまうな。魔王の復活を望む人間がいるとの話もある。敵は魔王の意思の下の魔物だけではなく、人間もいるかもしれない。
「……分かりました。全身全霊、皇女様をお守り致します」
「よろしくね。リック」
俺の言葉に皇女がこちらに微笑みかけて来る。眩しい笑顔だ。この信頼を裏切らないように奮起しなければならないものだ。
そのまま会食は終わり、俺たちは客間に戻る。一人一室の豪勢な待遇だ。いかに俺たちに期待しているかが分かる。
「それじゃあ、みんな。明日からは魔王復活を阻止するための旅の始まりだ。ゆっくり休んで英気を養ってくれ」
パーティーリーダーのレオンがそう言い、俺たちはそれぞれの部屋に戻る。
シャーナル王国でも王城の客間に通された事はあったがそれに負けず劣らずだな、この部屋は。
とりあえず休息を取る事にはしたものの、さて、明日からの魔王の復活阻止はどのような旅になるのかと思いをはせる。
やはりデュオレイアの力を借りる事になるか。聖女の影を自称する彼女の正体は未だ知れないものの、魔王の意思が復活しようとしている場所を見つけ出したりと不思議な力を持っているのは事実。今回の魔王の復活阻止にも大いに活躍してくれるはずだ。
そう思いつつもとりあえず明日に備えてさっさと眠ってしまう事にしようと思い、俺はふかふかのベッドに横になる。
ランプを消し、薄闇の中、眠気が俺の体を覆い尽くし、俺の意識は夢の世界へと落ちて行った。
そして、翌日。
城の前に俺たちパーティーと皇女メイルフェスが集まる。これから魔王の復活阻止の始まりである。
「それじゃあ、魔王の復活を阻止する訳だけど、デュオレイア、分かるかい?」
レオンがデュオレイアに声をかける。デュオレイアは頷いた。
「闇の気配が蠢いている場所はいくつか探知しております。それを片っ端から潰していけば魔王の復活も阻止出来ると思います」
「一つじゃないのか」
「そうですね。多数あります」
どうやら魔王の復活阻止という大業は一筋縄ではいかないようであった。
「みんな、よろしくお願いするわね」
皇女メイルフェスはそう言って俺たちに信頼の視線を向ける。別にやましい事を考えていた訳ではないが、この視線は裏切れないな、と思う。
見事、彼女の予知した魔王の復活を阻止してこの国の、いや、この世界の平和を守ってみせようではないか。
「よろしく頼むぞ、お前たち」
見送りに出て来た護衛隊隊長のフリードがこのように俺たちに皇女を預けるのは不本意だが、と言いたげに不承不承な態度で俺たちに声を発する。その態度に苦笑いしてしまいそうになるが、堪えて頷く。
「お任せください。皇女様には傷一つ付けさせません」
「当たり前だ。馬鹿者め」
俺の言葉にフリードが言う。実際、傷一つでも付けたりしたら大問題だろう。
「お兄様も見送りに来てくれたのね」
「……私はこいつらを信用していない。魔王の復活阻止など出来るはずがないのだ」
メーゼス皇子も一緒に外まで出て来ていた。信用されていないんだなぁ、とこの皇子からは感じるが、こちらの反応の方が普通かもしれない。
「まぁ、出来るかどうかは見ていて下さい」
俺はそんな皇子に声を発する。自分でも出来るかどうかの保証はないと思うが、聖者や英雄と呼ばれている身として出来る限りの事はやるつもりだ。
「ふん。お前たち平民などに」
「お兄様。それはお父様に窘められた事でしょう?」
「……ふん」
すねたようにそっぽを向く皇子。単に俺たちが気に入らないというだけではなく元来、ひねくれた性格なのかもしれない。
「さて、それじゃ、行きましょうか、皇女様」
俺の言葉に皇女は頷き、俺たちはついに出発した。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
皇帝と皇女が全幅の信頼を得て、リックたちは魔王復活阻止のため旅立ちます。その行為は聖者として英雄として世界の危機を救うための偉大な行為となります。ケチを付けて来る者たちも全て見返すくらいに。
リックのさらなる成り上がり・活躍・評価されるのが楽しみ、リックがチヤホヤされるのが見たい、リックを侮る者たちがざまぁされるのが待ち遠しい、魔王復活阻止が上手くいくか気になる。
そう思った方は星評価やフォローをしていただけると嬉しいです!
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