147 ホルスのトップは彼だと思う
記憶のままの配列だが、前列の中央──颯太の真下に、当時アルガスの施設員だった誠の姿があった。
今と変わらない穏やかな表情に、キーダーのまとめ役だった頃の姿が垣間見える。
「懐かしいですね。確か、松本さんが一緒に撮ろうって言いだしたんですよね」
「あぁ。あの頃の思い出はこれ一枚になってしまったよ」
颯太が小さく笑う。写真に写る若い颯太は誠とは正反対で、ムッスリとカメラを睨んだやる気のない顔で突っ立っている。
誠は目の端に
「解放前のアルガスは牢獄だとか言われてた。颯太君も『嫌だ』って言って真っ先に出て行ったけど、僕は君たちと過ごす時間が好きだったよ。まさかこの歳までここに居られるなんて思ってなかったけどね」
昔を懐かしむような穏やかな口調で、誠は話をする。
けれど、時折辛そうな色を見せる理由は何だろうか。ここでの生活は楽しい事ばかりではないと想像はできるけれど。
「一つ聞いても良いですか?」
「何だい、颯太くん」
「ヤスさん──加賀
颯太の目がずっと写真の彼に落ちている事に気付いた。
バーサーカーの松本の隣に写る男が、そんな名前だった気がする。京子は彼の事を知らないが、颯太とは仲の良かった人なのだろうか。
誠は一瞬眉を
「彼は外部調査へ出て命を落とした。それ以上を僕の口から告げる事はできないよ」
それは真実が他にあるという返事のように聞こえた。
誠は基本的には優しい人なんだと思う。けれどそれ以上に『アルガス長官の宇波誠』という殻は頑丈に彼を固めていた。
「分かりました」
颯太もそれ以上は聞かなかった。
誠は「それで」と話を戻す。
「アルガス解放以後、
「あの時はそれしか考えていなかったですからね。また戻って来ましたけど」
「流石の僕も驚いたよ。けど、嬉しかった。ありがとうね」
「いえ……」
颯太は気恥ずかしそうに誠から目を逸らした。
「秀信くんは出て行く理由を話してはくれなかったんだ。ただ『自分は何も知らなかった』んだって言ったのが最後。何を知ったつもりになったのかは分からないけどね」
「松本さんは今、ホルスと関係があるんですね?」
彼はそうなるために外へ出たのだろうか。それとも、行き着いた場所がそこだったのだろうか。
「逃がしてしまって申し訳ありません」
「今回の事は、
「どういう事ですか?」
誠の表情から笑みが消える。
あまり見たことのない鋭さに、京子はぞっと背筋を震わせた。
誠は一度真横に閉じた唇をゆっくりと開いて、
「今から言う事は、正確な情報じゃない。ただ、キーダーに共有させるべきだと思うから、君たちには先に言うよ?」
「俺は……?」
「君にも知っておいて貰いたい事だ。今のホルスのトップは松本秀信──彼だと思う」
思いもよらぬ事実に、京子と颯太は思わず「えっ」と声を揃えた。
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