58 長い夜が始まる
同窓会の会場は、前に
広い座敷の中央にテーブルが縦に並んでいて、大きな一卓を全員で囲う仕様になっている。
幼馴染の
席は八割ほど埋まっていたが
今日は中学を卒業して初めての同窓会だ。あれからもう9年経っている。
メンバーは皆大人の顔になっていたが、名前はほぼ一致させることができた。
──『見つけた』
浩一郎の呪縛が解けた後も、いまだにあの時の夢を見ることがある。そのせいで小、中学校のメンバーは高校時代の同級生よりも身近に感じる事ができた。
「京子、年下の彼と別れたんだって?」
先生が到着して挨拶からの乾杯が済んだところで、陽菜が『待ってました』と言わんばかりのテンションでその話を始めた。
今回の帰省に併せて報告をした時は
「そうなんだよぉ。仕事忙しくてすれ違いって言うのかな」
「京子って、好きな人が側に居ないと駄目なタイプだもんね」
「そう見える?」
「見えるよ」
はっきりと陽菜は言い切った。
桃也が居なくて寂しいと思う事は多かったが、そういう体質だと言われると首を傾げてしまう。そんな納得のいかない顔をする京子に、陽菜は「分かってないんだから」と人差し指を突き付ける。
「彰人の事も卒業してからあんまり騒がなくなったし、案外そういう理由なんじゃないの?」
「うっ……」
何も言い返せなかった。
「それで、前に連れて来た彼とはどうなの?
「何でそこで綾斗の名前が出てくるの?」
前に来た時は確かに綾斗が一緒だったが、本部に来て間もない彼とは今のような関係ではなかった筈だ。ふと思い返しても、酔っぱらって怒られた記憶しかない。
「好きって感情があったかどうかは分からないけど、満更でもないと思ったんだよね。結構カッコ良かったし?」
「顔は……関係ないよ」
「そりゃそうだけど。普通、異性の先輩の実家に泊まろうなんて思わないって」
ぐいと顔を近付けて、陽菜が京子に迫る。
動揺を悟られたくないのに、アルコールのせいで平常心など保てなかった。
「──そういうものなのかな」
あの時から綾斗はそういう気持ちだったのだろうか。
初出張で現地集合を提案した事は悪いと思っている。だから一緒に来ると言った彼に、それ以上の特別な意味など考えたこともなかった。
色々あったが、翌日ホテルのベッドで目覚めた時が綾斗とのターニングポイントだった気がする。
「綾斗か……」
告白されたことやバレンタイン──そんな彼の事を考えながら、再びジョッキに口を付ける。
けれど酔いのテンションがマックスになり掛けたところで、状況は一転した。
「やっと来たぁ」
入口を振り向いた陽菜のその言葉が、この長い夜のスタートを切る。
彰人が来たのだ。
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