56 未確認の予定
三月になって急に春めいた気温上昇に戸惑いながらも、京子は厚手のコートを羽織って家を出た。
今日は一度アルガスに行って仕事の申し送りをした後、昼前に早退する予定になっている。
中学の担任がこの春に定年退職するという事で、お祝いを兼ねての同窓会に出席するためだ。
この間
「連絡しない方が良いよね」
ふと気になってスマホを取り出すが、当日に確認する事でもないような気がして、メールしかけた指を放した。
アルガスに来て共有フォルダを開くと、彼は今日北海道支部での会議に出席することになっている。そんな遠くから福島に来るのは現実的でない気がした。
折角の同窓会に会えないのは残念だが、キーダーだという事実を公表していない彼に同級生の前でどう振る舞えばいいか見当がつかない。
「今日と明日、緊急対応できなくてごめんね。すぐ駆け付けられないけど、何かあったら連絡して」
デスクルームには
「こっちの事は気にせず、のんびりして来て下さい」
「うん、忙しいのにごめんね。お土産買ってくるから。美弦もよろしくね」
「バッチリ任せて下さい!」
私服のまま仕事を済ませ、京子は「ありがとう」とコートを羽織る。
休暇届は前々から出していたが、この週末に限って細々とした仕事が重なっていた。二人は全く気にしていない様子だが、プライベートの休暇を申し訳なく思ってしまう。
「駅まで送りますか?」
「ううん、そこまで面倒掛けられないよ。天気良いし、のんびり行くから」
外までの見送りを遠慮して、京子は部屋を後にした。
人気のない大階段を下りた所で、「そういえば」とふと足を止める。
同窓会に行く事は伝えてあったが、綾斗に何も言われなかった。
彰人のことを話したわけではないけれど、彼はもしものことを気にするだろうか。
「考え過ぎ──か」
ぽそりと呟いて、外へ出る。
その頃、美弦が綾斗に京子との関係を問い詰められている事など
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます