57 好きだという気持ちは
アルガスに居るのは安全かもしれないが、マサが言っていたようにまたすぐに戦闘は起きるだろう。
「貴方が心配してどうすんのよ」
誰も居ない応接室を落ち着きなく歩き回る龍之介に、
龍之介が気まずい空気を感じてしまうのは、ここに居るのが彼女と自分の二人きりだからだ。
来る途中の廊下で修司が施設員に呼ばれて行ってしまった。美弦とのんびり世間話をしているわけにもいかず、龍之介は思い切って胸の内を明かそうと試みると、さすまたを
「ガイアに向かって行った行動力は凄いと思うわ。けど、無謀って言った方がいいのかしら。また同じようにそれで戦えると思っているなら大間違いなんだからね?」
気持ちを見透かされて、龍之介はさすまたを強く握りしめる。
「だったら他に、俺にできることはないんですか? 朱羽さんが戦ってるのをただ見ているだけなんて、俺……」
「勘違いしないで。貴方はノーマルで、ただのバイトなのよ? 時給に見合った仕事をしてればいいじゃない。それとも何、朱羽さんのことが好きだからとか言うつもり?」
美弦はソファから立ち上がって、窓辺に立つ龍之介に詰め寄った。
素人の自分は戦うべきでないと、頭では分かっている。無駄な正義感を直球で否定されて、龍之介は言い返すことができなかった。
「黙ってるってことは、そういうこと? 本気なの?」
浅く頷いた返事に、美弦が「何よ」と声を震わせる。
「無茶しないでって言ったでしょ? 好きだって気持ちだけで危険に飛び込もうとするなんて、周りが見えてない証拠じゃない。修司と同じよ。男ってそんなのばっかりなの?」
初めて美弦に会った日、確かにそんなことを言われた。
──『自分の命をかけるなんて想像もできない』
あの時自分が口にした気持ちは、今日の行動とは大分矛盾している。
朱羽に会って変化した龍之介の感情は、美弦には受け入れ難いもののようだ。
「けど、俺は……」
「朱羽さんのこと泣かせないでって言ってんの!」
一瞬堪えた衝動を抑えきれずに、美弦は言葉を吐き出した。目には涙が溢れている。
「俺は朱羽さんに初めて会った時、一目惚れしたんです」
龍之介にはその意思を正直に伝える事しかできなかった。
「美弦先輩と初めて会った時、俺には戦うって事が良く分からなかった。男がって言うけど、修司さんを戦わせたくないって言う美弦先輩も同じじゃないんですか? みんな……心配なんですよ」
「そんなの、分かってるのよ!」
ぴしゃりと言って、美弦はうわあっと泣き出してしまう。
「年下のくせに……ノーマルのくせに、偉そうなこと言わないで!」
子供のように泣きじゃくる美弦は、いつもの勝気な彼女とは別人のようだ。
どうすることもできずに震える小さな肩をそっと見守ると、泣き声に駆け付けた修司が部屋に飛び込んできた。
「何やってんの? 二人してさ」
「修司さん、すみません。俺……」
龍之介が謝ると、修司は「気にすんな」と肩をすくめて、彼女を部屋の外へ連れ出す。
恋人同士の二人だが、開口一番に美弦が言い放った言葉に、龍之介は思わず耳を疑った。
「修司の馬鹿」
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