73 空間隔離
二人が戦闘態勢に入る。
ゲージを振り切るような気配の上昇に驚いて、修司が二人の間に飛び込んだ。しかし京子が「駄目だよ」と背後へ庇う。
「来ないの?」と
「貴女、修司と戦うつもり?」
「キーダーは敵よ。貴女も彼も変わらないわ」
「だったら私を倒してからにして。修司は下がって!」
「は、はい」
殺気立つ二人に、修司は言われるまま後ろへ走った。自分が入り込む
アンコールに入って二曲目。横のモニターから流れてくる曲が最後のサビに入る。
次はあるのかと不安になって京子を伺うと、彼女も状況を
「アンコール、あと一曲だけ長引かせて。
言い切った京子は
サイズや形状は個々によって違うようで、彼女の刀は真っすぐ伸びた洋剣のようだった。
「ホルスの貴女は何で戦うの?」
「
口元に手を当てて、律はふふっと微笑む。その表情が
互角に戦うことなどできないし、二人の眼中に自分などいないことは分かっているのに、不安と恐怖で全身の汗が止まらなかった。
「それより」と律が周囲を見渡して、首を
「貴女こんな狭い場所で私と戦うつもり? 壁なんてすぐに突き抜けるわよ? ノーマルを傷つけるのがキーダーの仕事なのかしら?」
楽しそうに話す律に、修司は辺りを見渡した。
天井はある程度の高さがあり、それなりの広さもある。けれど、光を飛ばして戦えるかというと無理があった。アルガス
壁一枚
「駄目ですよ」と叫ぶ修司を、京子は「落ち着きなさい」と
「壁を守る自信はあるよ」
「それじゃ思いっきり戦えないじゃない。私だって中の観客やアイドルを傷つけようなんて
「だったらどうするつもり……?」
京子の問いににっこりと笑顔を返した律は、通常モードに見える。そんな顔で何をするのだと修司が構えると、突然モニターからの音が静まった。
『みんな、有難う』と少女の声がして、野太い男たちの歓声が響き渡る。
『じゃあ、これがほんとに最後の曲だよ。また、みんなに会えますように!』
流れ始めたメロディは、アンコール前の最後に流れたものと同じ、修司のスマホに入れられたあの曲だった。
京子の促したラスト一曲だ。
「長引かせたところでメリットなんてないからね。この一曲でカタを付ける」
「ならちょうど良かったわ。これの限界が五分くらいなのよ。ちょうど一曲分」
律は白く光らせた右手を、頭上でくるりと回転させた。風が吹き上がるように再び気配が強まって、修司はそっと
光の
「何?」と伺う京子の声に重ねて「見てて」と律は微笑む。
彼女の声を合図に、光がキンと鋭い音を立てて辺り一面に広がっていく。一瞬耳が痛んで修司は
強い光は風景に溶け、何事もなかったかのように元通りになる。まだ少しだけ残る耳鳴りにモニターの音が遠のいた。
「これって、空間
「名前なんて知らないけど、そういう事よ。ここから見渡せる視界は
「広範囲の空間隔離は特殊能力だった筈。そんな力があるのに貴女はホルスでいるの?」
「私は私のしたいことをしているだけよ」
律は人差し指を今度は胸の前で回し、そこに生み出した白い光をホールへの壁へ向けて飛ばした。
修司は粉々になる壁を予測して「うわぁ」と叫ぶが、光は壁に弾かれて霧散してしまう。
「さっき張った膜が力を吸収するから、建物へのダメージはないわ」
「すごい」と修司は胸を撫で下ろした。緊張が少しだけ緩むと、モニターからの曲が小さく耳に届いてくる。
今この状況に合わせるBGMにしては、あまりにも違和感を覚えてしまう歌詞だ。こんなにも軽快でポジティブな曲の中で彼女たちは戦おうというのか。
けれど、二人の耳に彼女たちの歌声なんて聞こえていないのかもしれない。
光の結界のリミットに彼女たちの気持ちが急いて、爆音が辺りを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます