27 悪い奴らからの勧誘と言えば
朝、アルガスのヘリがけたたましい音を立てて頭上を過ぎて行った。
日常的に良くある光景なのに、山での一件のせいでヘリの音には
教員の研修とやらで午前授業なことをすっかり忘れていた
衣替え間近の暑さを逃れて飛び込んだ店内で、キンと冷えた吹き出し口の真下を陣取る。
「生き返ったぁ」
冷風に汗を溶かしながらコーラを流し込む修司の向かいで、譲は一番安いハンバーガーをトレイに三個積み上げて見せた。サイドメニューはなく、三個のハンバーガーとサイダーが彼の今日の昼食だ。
「修司、何か疲れてる? 朝から眠そうだったけど」
ハンバーガーを上から順にかぶりつく譲は、草食系な見た目よりも大食いだ。
「お前はいつも元気だな。昨日は帰り遅かったんだろ?」
「まぁね。けどライブの疲れは
わけのわからんことを言うから、譲は女子に距離を置かれるのだ。
この土日で『地元
「気分なんて、気の持ちようだって」
そうは言うが、好きなアイドルを見に行ったのと、山登りした上ヘリに襲われたのとでは状況が違いすぎる。
「そんな簡単に言うなよ」
修司が奮発した目玉焼き入りのテリヤキバーガーを食べながら溜息をつくと、譲が「ふふんふん」と軽快なハミングを刻みながら自分のリュックに手を突っ込んだ。
「そんなローテンションの修司には、これをプレゼントするよ」
目の前に突き出されたのは、まだビニールがかかったままのCDだ。
昨日、譲が片道四時間以上かけて鈍行列車で会いに行ったアイドルグループ・ジャスティのもので、修司のスマホにダウンロードされた曲である。
「彼女たちの写真でも眺めてれば、嫌な事なんか忘れるって」
「でも俺、この曲落としてるし。貰ったら悪いだろ?」
「いいのいいの、土産買ってこなかったし。握手券ゲットするのに同じの十枚買ったから、
強引にCDを握らせると、譲はうっとりと目を細めて自分の右手を
バイト代の
譲は自分に素直だ。アイドルに熱中するなんて馬鹿な話だと周りに笑われても、絶対に自分の意思を曲げることはない。
こんな譲の意見を聞きたいと思ってしまう。半分残ったテリヤキバーガーをコーラで流し込み、修司はテーブルに置いたCDをじっと睨んでから唐突に切り出した。
「なぁ譲、キーダーってどう思う?」
譲は「え」と眉を上げた。サイダーのカップを離して「どうしたの?」と笑う。
「キーダーって言えば、日本を守るアルガスの
初めて聞く代名詞だ。キーダーが突然戦隊もののヒーローのように思えてしまう。
「なら、ホルスの事は? 聞いたことあるか?」
「あぁ、キーダーの対抗勢力だっけ。レジスタンスっていうの? 何したいかは知らないけど一般人を巻き込まないで欲しいよね」
流石譲だ。彼自身ノーマルの筈なのに、一般人なら聞き流してしまう話題にも詳しい。
「だよな。俺たちは平和に暮らしたいだけなのにな」
バスクを選ぶことも、キーダーを選ぶことも、修司にとっては『自由』を求める選択に変わりない。
「ホルスがキーダーをどう思ってるのかは分からないけど、奴等は情報が少なすぎるんだよ」
「そうなんだ」
「うん。組織の実態が分からないってことは、何処にでもいるような普通の人ってことだからね。『ホルスです』って名札でもぶら下げといてくれなきゃね」
黒スーツに看板を下げたサングラス男を浮かべて、修司は盛大に吹き出すのを堪えた。
「確かにそれだと分かるよな。けど、譲はすげぇな。俺が何言っても、ちゃんと返事してくれる」
「好奇心旺盛なだけだよ。けど、どうしたの? 修司ってこんな話するヤツじゃなかったじゃん。もしかしてホルスに勧誘でもされた?」
歯を見せてニヤリと笑う譲に、修司は「んなワケあるかよ」と眉をしかめる。
勧誘されていたら、もっと話は深刻だ。こんな場所でテリヤキバーガーなど食べていられるわけがない。
――『私の側に居てくれない?』
譲の発言に、ふと絡んだ律の笑顔。彼女はただのバスクで、昔の平野と一緒だ。
――『僕の事『ホルス』だって思ったんなら見る目ないよ』
あの二人はそうじゃない。けれど彰人に否定された言葉以外、二人がホルスでない理由も浮かばなかった。
「そんな実態も分からない奴等が、どうやって勧誘してくるって言うんだよ」
「そりゃあ、悪い奴等の勧誘と言えば、黒スーツにグラサンかけてやってきてさ」
映画のワンシーンを再現するように、突き出した親指を
「
草食系ふんわり顔の目が鋭く光った。
「あぁ、なんかそれっぽいわ」と、修司は
モヤモヤしたまま食事を終えて、二人は店を出た。
「俺この後バイトだけど、少し早いからゲーセンでも寄ってく?」
気晴らしも兼ねて譲の提案に乗ろうとして、修司は「あれ」と足を止める。
暑さとは違う、肌に張り付くような違和感を感じた。
背後の自動ドアから出てきた客に「すみません」と注意されて慌てて横へずれ、修司は身構える。
――「バスクは寸での差でキーダーから逃れられる希望もある」
じゃあ、相手もバスクだったら――?
突然現れた三人のスーツ姿の男が、修司の正面を
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