反復する不条理スイッチ
長月瓦礫
反復する不条理スイッチ
政府の技術開発部の部長から新しい機械が完成したので、見に来てほしいと言われたのはつい先日のことだ。
あそこは変な機械を製作することで有名で、我々の国で役に立っているのかさえも不明だった。
たまに「あそこの機械に助けられた」という話を聞く限り、ゴミの山を生み出しているわけでもらしい。
それでも、あの部署に誰も近づきたがらない。
何せまともな人間がおらず、相手をするのも一苦労だからだ。
私もできることなら、避けていたかった。
しかし、今回のお誘いが舞い込んできた。
無視するわけにもいかず、部下を数人集めて向かった。
私だけで行くつもりだったから、数人名乗り出てくれた時には正直ほっとした。
少人数で実験室へ向かい、開発部の部長から機械の説明を聞いていた。
熱心に解説していたが、よく理解できなかった。
時間と空間を結んでどうのこうのと、何をしたいのかがさっぱりだ。
そのまま話を右から左へ流しつつ、機械を眺めていた。
部下たちも話をひたすら聞かされるだけで、ずいぶんと退屈しているようだ。
しばらくして、その機械の操作することとなった。
手元にあるスイッチで簡単に発動するらしい。
何の変哲もない赤いボタンだ。長たらしい説明をしながら、ボタンを軽く押した。
大きな音を立てた後、煙を吐いた。
嫌な予感が脳裏をよぎる前に、炎を上げて爆発した。
私は逃げる間もなく、煙に巻かれていた。
もうすでに手遅れだったらしい。
気がつけば、私はソファーに座っていた。開発部に置かれている応接用のそれだ。
開発部の部長が言っていた空間を結ぶというのは、あの部屋からどこか違う場所へ移るということであるらしい。さて、問題は時間だ。時間をどう変えたのだろうか。
「館野さん、大丈夫なんですか?」
「何が?」
「何というか、その……開発部ってあまりいい噂を聞きませんし。
ロクなことにならないんじゃないんですか?」
「ロクなこととは失礼だな、これまで有用じゃない物を作った覚えはない」
「部長、まずは世の中の役に立ってからそれを言ってくださいよ」
私はこの会話に既視感を覚えた。
あの機械を動かす前も似たような会話をした。
「それでは、発明品の説明をいたします。こちらへどうぞ」
部長に促され、機械の前に立った。
そうだ、このような感じで説明を受けたばかりではないか。
「時間と空間を繋げると聞きましたが、具体的にはどういうものなのでしょうか?」
「耳が早いですねえ、もしかして誰かから聞きました?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「何度目の説明になるか分かりませんが、この機械を使うことで時間と空間を結ぶことができ、自由自在に移動することができるのです」
「タイムマシンということですか?」
「いずれはそのような使い方をするでしょうな。
今はまだ、横方向にしか動かせないので何とも言えないのですが」
「横方向、ですか?」
「今は空間同士を繋げることしかできないのですよ」
不思議なもので、何度も聞いたからか突飛な説明でも頭に入ってくる。
移動時間があるのだから、縦方向へ多少は動いているのではないだろうか。
「それでは、スイッチオン」
再び赤いスイッチを押すと、煙を吐き出し始めた。
これも先ほど見たことがある光景だ。
爆発に巻き込まれないように端へ寄ろうとするが、テーブルに足を引っかけて倒れてしまった。ああ、これでは間に合わない。背後で爆発音が轟いた。
私は逃げる間もなく、煙に巻かれていた。
もうすでに手遅れだったらしい。
気がつけば、私はソファーに座っていた。開発部に置かれている応接用のそれだ。
開発部の部長が言っていた空間を結ぶというのは、あの部屋からどこか違う場所へ移るということであるらしい。さて、問題は時間だ。時間をどう変えたのだろうか。
というか、先ほどから実験室を何度も行き来している。
縦方向への移動はまだできないとのことだったが、タイムマシンは爆発していない。
数十分前の実験室へ飛ばされたと見ていいようだ。
「まさか、タイムマシンになるまで繰り返すってのか?」
「どういうことですか、館野さん」
「さすが、お目が高いですな。
空間と時間を自在につなげる渾身の作品です。
ささ、どーぞこちらへ」
部長に促され、機械の前に立った。
赤いボタンを見たその瞬間、嫌な予感が脳裏をよぎった。
「何度目の説明になるか分かりませんが、この機械を使うことで時間と空間を結ぶことができ、自由自在に移動することができるのです」
この説明も3度聞いたことになる
分かっていてやっているのか、それとも本当に何も知らないのか。
「その装置に何か意味はあるのでしょうか?
時空間を行き来することで、何かメリットはあるのでしょうか?」
「意味とかじゃない、作るのですよ。
メリットなんて考えている場合じゃない」
きっぱりと熱のこもった眼で断言した。
本当に何で作ったんだよ、こんな装置。
何でこんな部署に予算が降りるんだよ、うちの会社は。
誰だって一度は考えるはずのことなのに、なぜ誰も疑問に思わないんだ。
「ともかく、まずは使ってみていただきたいですな。
文句はそれからでも遅くはないでしょう」
部長は意気揚々とスイッチを押した。
案の定、爆破が起きた。
逃げ遅れてしまった私は、応接用のソファに座っているのだった。
反復する不条理スイッチ 長月瓦礫 @debrisbottle00
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