第15話 青汁バレンタイン



 2月 バレンタイン



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武田嫁(上杉すみれ)から女子へのお知らせ。


 平素よりウチの旦那、武田浩二の応援をありがとうございます。

 お願いなのですが本気で応援してくれているならチョコはあげないでください。


 とてもモテるのでたくさんチョコを戴くとせっかく鍛えた体がデブります。

 なのでバレンタインはチョコの代わりに未開封の【粉末青汁】のみ受け取ります。


 なお、膨大な量になる可能性があるためホワイトデーのお返しで金銭はかけられません。お礼はキャッチボール10球になります。



 武田浩二の嫁より。


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「って文章をグループメッセージに放り込んで拡散をお願いしといたからあんたの食事に今夜から青汁が増えるわよ。」



 してやったり。そんな勝ち誇った顔ですみれは言う。例の婚姻届け拡散事件で俺の嫁としての地位を確固たるものにしたらしい。クラスの女子たちにそれとなく聞いてみたら『もう安泰なのに未だに警戒してて可愛い、まあ来年の後輩にも知らしめる必要があるからずっとあの態度かもね。早く結婚して安心させてあげなさい』ってみんなから言われた。すみれの行動は一般的な高校生からみると逸脱していると思うけど受け入れられているのを確認できるとホッとする。

 俺の机の上には粉末青汁のスティック、小袋、稀に箱がずんと置かれている。青汁業者になった気分だ。

 バレンタインデーでこんなに貰うとか人生初で少し嬉しい、チョコじゃなくて良かった。量がやばい。



「なあ、すみれ?これの弊害で『運動部男子にはチョコじゃなくて青汁をあげよう』って流行ったみたいでクラスでも何人かガチ泣きしているんだけど…」

「来年は泣いた人のもとにはチョコがちゃんと届くから大丈夫でしょ。さすがに『本命です!付き合ってください!』って言いながら青汁を渡す光景を見たときは我が目を疑ったわね…」

「本命青汁を貰った観音寺はどうすんだろうな。」



 そう、本命青汁告白はこの教室内で観音寺がされたのだ。俺は教室に入るタイミングで見てしまったので気まずくてすぐトイレに行ったのでその後は知らない。保留してホワイトデーに返事をするんだと思うが…



「あんた面白い所見逃したのね?その後すぐに『俺には恋人がいるんだごめん』って断っていたわよ?ギャル子の肩を抱きながら。」

「あいつら付き合ってたのか!?」

「いや、気づきなさいよ…空気が恋人のそれだったでしょ。」



 仲良しだなぁとは思っていたけどマジか。ふと観音寺の方に目をやると膝の上にギャル子を載せていちゃついていた。恋人だって公言したもんな。



「すみれもああいうの教室でしたいか?」

「……いや、なるべくバカップルっぽくない真剣な交際をしておいた方がドラフト特番の再現VTRで好感触になりやすいからやめておくわ。」

「打算が凄い。」



 まあ実質真剣な交際というか…キスもまだだもんな俺達。










「ん。」



 家に帰るとすみれが箱を突き出してきた。なんだ?開けていいのか?円盤状のボールを象ったホワイトチョコレートだった。



「チョコレートはデブるって言ってなかったっけか?」

「この本命チョコには愛が詰まっているからゼロカロリー。嘘嘘、私が渡す分のお菓子は計算に入れているから大丈夫よ。」


 すみれとの付き合いは小学校からで長い、チョコを貰ったこともある。でも本命はこれが初めてなんだなと思うとそれだけで嬉しいやら口の中が甘くなってくるやら。



「すみれ、ありがとう。嬉しいよ。大好きだ。」

「うん、私も大好き…ほら、食べなさいよ。」



 頬を染めて恥ずかしいのを誤魔化すように食べろ食べろとせかしてくる。ホワイトチョコレートの味か、この状況のせいかめちゃくちゃ甘かった。何か苦めの飲み物が飲みたい。

 ドンと、すみれが飲み物をテーブルに置いてくれた。



「今なら青汁もついてきます。」

「苦いの欲しいけどそれじゃねーよ。」



初の本命チョコは渡す方も特別だったらしい。顔が赤いまま腰に手を当て青汁をイッキするすみれが少しテンパってて可愛かった。

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