第13話 初詣 料理も牽制もできる嫁
正月
当たり前のようにすみれは俺の家で年を越し、すみれの父から『嫁に行くのが早すぎて寂しい』とメッセージがとんできた。すみません、次の年越しはそっちに俺が行きますんで。結婚はまだ年齢が足りないけど通い妻とか実質嫁入りとか言われたら一切否定できない状況ではある。
すみれと2人で初詣に行く。神社には元旦から人が押し寄せており正月から活気が凄い。
ガランガラン
今年は甲子園へ行けますように。あと、昨年来る予定だったプロスカウトが来なかったみたいなので近いうちに来ますように。
「ねえ知ってる?神社では七夕みたいに願い事をするんじゃなくて『こういうこと頑張るから見守っていてください』ってお願いするのが正しいらしいわよ?」
「そうなのか?普通に願っちゃったな。」
「私はちゃんと『浩二がピーマンを食べるのを見守ってください』ってお願いしたわ!」
「鬼か。」
博識なのを素直に尊敬したのに何を神様にチクってくれるんだこの嫁…まだ嫁じゃなかった。すみれは栄養学をベースに色々な料理を作ってくれるのだがそうなると材料も色々な物を使う、好物では無い材料も中にはある。俺もできるだけ克服しようとしているし、すみれも色々工夫をしてくれるのだが唯一食べられないものがピーマン。
「パプリカ入りチャーハン作ってからパプリカを抜いてもチャーハン微妙な顔で食べるもんねぇ。」
「ピーマン系列は味がもう無理…っつーか未だに諦めてなかったのな。」
最後にピーマン料理が出たのって去年の夏休みだった気がする。諦めてほしい。
「そういえばずっと気になっていることがあるんだけど…すみれさ、婚姻届けはおかしくないか?」
「ちゃんとあんたがプロ入りしてから役所に出す予定よ?話題になるからプロ指名前に婚姻も結婚もしてくれてていいぞってスカウトさんも言ってたけど。」
「いや、そういう世間体的な意味じゃなく…え、スカウト来てたの!?」
能力の前に練習態度とかをまず見たかったとかで監督とすみれだけちゃんと挨拶していたらしい。監督は分かるけどなんですみれがそこに混ざっているんだ?いや、実質試合の副監督だけどさ。追及してもこれ以上は答えてくれそうになかったので本題の婚姻届けの話に戻る。
「俺が親たちに結婚前提で付き合っているって言ったのは24日だったよな?」
「そうね。」
「俺とすみれは24日も25日もずっと一緒だったよな?」
「一緒だったわね。」
「…25日の朝に保証人欄に親の名前が入った婚姻届けが用意できているっておかしくないか?」
「捕手ってのは試合前に念入りに準備をしておくのよ!」
悪びれもなく言いきった。愛らしいからいいけど。キャバクラで敵チームの選手のプライベート情報をかき集めて試合中に囁いてくるレジェンド捕手に比べればずっと可愛いもんだ。
「ほら、一緒に鳥居を背景に写真撮ってクラスのグループに送るわよ!」
「…これ以上牽制球投げる意味ある?」
「あんたの成長を加味すると仲良しっぷりを見せつけておかないと不安になる時があるのよ。高給取りになる予定だし。」
横から胴体にぎゅっと抱きついたすみれを包み込むように手を回す。それを俺が自撮りする。俺が撮影する方が牽制になるんだとか。
俺だってすみれ以外に横に居て欲しい人なんていないんだけど恥ずかしくて言わなかった。
言えばよかった。安心させてやれば良かった。
そうすれば後悔なんてしなかったのに。
「自撮りと一緒に婚姻届けの写真も送っておいたわ!」
165kmの牽制球がクラスのグループに晒されていた。個人メッセージがめちゃくちゃ飛んでくる、見たくないなぁこれ。おい、クラス以外からもメッセージ飛んできているんだが?拡散されてるぞこれ。マジか。
少し後悔したあとどうにでもなれと諦めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。