6-3:父子対面
*
九月に入ってから、ようやく真琴は、実父白石ヤスカとの約束を取り付けることができた。
母親に彼のことを訊くのはどうかと数日悩んでいたのだが、訊いてみれば、職場行けば会えるわよぅ、あの人面倒くさがりそうだから秘書さん経由で繋いでおけば確実、なんて軽い返事があって驚いた。特に目的は聞かれなかった。母親のそういう距離感は真琴も助かっていた。
そして母から教えてもらった秘書の連絡先からアポを取り付けた。最近より厳しくなったというセキュリティチェックを済ませ、虹彩認証の後に防衛省のロビーに通される。幼い時分、まだ母が働いていた頃に職場見学で連れてきてもらった古い建物からは、随分と様変わりしていた。
通されたブースは真っ白な壁で無機質だ。
その中で待っていると、しばらくしてドアがスッと開く。
実に七年ぶりかそれ以上だろうか……久しぶりに見た父親。少しは老けたが、相変わらず年齢不詳で冷たい目をしていた。
「お久しぶりです」
「……何の用だ」
白石は座ることもなく、じっと真琴を見つめている。長く話をする気はないことは分かっていた。おそらくアポも断ろうとしたのだろうが、秘書に息子さんからのアポなんですからと押されたに違いない。本人の嫌そうな顔は予想した通りだった。
「アナタに聞きたいことがあって」
「忙しい。あとでメールを」
そう言って踵を返そうとする父親に、真琴はすっと話しかけた。自分でも聞いたことのないような低い声。やけに頭は冷静なように思えた。
「ミラーワールドって知ってますよね」
その言葉にぴたりと歩を止めた白石はこちらを振り向くと、ブースの中の椅子に腰掛けた。視線に促されて真琴もその前に座る。
はあと眉間にシワを寄せる白石の顔は本当に昔と変わっていない。昔から白いままの髪、そして少し赤い瞳。眼鏡の奥の目は神経質そうなまま、真琴を見ようとはしなかった。
「最近流行りのVRゲームだろう。それがなにか?」
「ただのVRゲームじゃない。ゲーム上位者を強制的に別次元に飛ばして労働させてる。防衛省管轄だって噂もある」
「……何の話だ、それは」
はっと口元を緩めた白石は、真琴を怪訝そうに見つめて不機嫌に言い放つ。
「大学が暇すぎて、頭がおかしくなったか?」
「っ、俺がこの身で体験してるんだよ!」
そう思わず叫ぶと、意外にも目の前の彼の瞳に動揺が見えた。しかし、それは一瞬のことで、白石は左腕に付いている時計を見やる。ただ、その変化に真琴は疑念を抱いた。
(俺が入ってることを知らない……?)
「……急な会議が入った。失礼する」
「っ、父さん!」
「私はもうお前の父ではない」
「!」
「何か用事があれば秘書経由で連絡を。応えられるかはわからんが」
あっさりと拒否だけを残して、白石はその場を去った。真琴は真っ白なブース内に残され、そしてドッと自分が汗を掻いているのを悟った。
あの目に見られると何も言えなくなる。別に何か暴力を振るわれた訳でも、威圧的に押さえつけられたことがある訳でもない。昔からだ、ただの拒絶。感情のない、あの目。
「くそ……っ」
何を考えているのか未だに分からない。分かりたくもないが、とさっきまでいた男のタバコの匂いに吐き気がした。
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