王家の第四王子は誕生日にプレゼントされた奴隷少女を救いたい ~国の犠牲になった彼女を救うためなら喜んでこの身を捧げよう~
ゆうき@呪われ令嬢第二巻発売中!
第1話 プレゼントは奴隷少女
「我が愛しい息子よ、父からの誕生日プレゼントを与えよう。自室に置いてあるから、お前の好きにすると良い」
無駄に規模が大きく、豪勢な誕生日パーティーの後、ジュラバル王国の第四王子である僕——マルク・ジュラバルは、自室に戻る前に国王である父、ゲール・ジュラバルにそう言われ、首を傾げた。
プレゼントを与えてくださるというなら、直接この場で渡せばいいものを。なんならパーティー会場で招待した貴族達の前で渡してもよかったはずだ。父上は不思議な事をするお方だ。
「ありがとうございます。たくさんの方々に祝ってもらえて、私は幸せ者でございます」
「うむ。ではワシは自室に戻る。改めてになるが、十六歳の誕生日、本当におめでとう」
そう言い残して去っていく父の背中が見えなくなるまで、僕は頭を下げ続けた。
……別にほとんど面識もないし、話した事もない連中に祝われても嬉しくはない。今日来た連中は、父や兄上達に媚びを売りたいだけだ。第四王子で何の力もない僕には一切の興味はないだろう。
「まあその方が気楽でいいけど。さて、プレゼントか……父上は何を置いていったんだ? 何か聞いているか?」
「いえ、私は何も伺っておりません」
「そうか……」
僕の専属の使用人を務める初老の男性——サルヴィも知らないのか……まさにサプライズプレゼントというやつか。本当に何を置いていかれたんだ?
うーん、宝石やアクセサリーといった類ならその場で渡せばいいだろうし……服とかか? それか、それ以上大きくてかさばるものとか……?
「考えていても仕方がないか。部屋に戻ろう」
「かしこまりました」
あー……身体中が凝り固まった気がする。どうも社交場は苦手だ……堅苦しい話し方をするのが面倒だし、下手に発言すれば、曲解されて受け取られる可能性もある。かといって黙っているわけにもいかないから、常に気を張っていないといけない。
とりあえずプレゼントを確認し、シャワーを浴びてさっさと寝よう――そう思いながら自室に入ると、そこには今まで部屋に無かったものが目に飛び込んできた。
それは、人間が入れそうなくらいの、大きくて四角い物体。黒い布が被せられていてわかりにくいが、布の隙間から中をよく見ると、それは頑丈そうで持ち運びも割と容易にできそうな牢屋だった。
「なんだこれは……」
全く想像もしていなかった物体の登場に、思わず部屋の入口で唖然としていると、僕が帰ってくるのを待っていたのか、牢屋のすぐ近くに立っていたメイドが頭を下げた。
彼女は父上の身の回りのお世話や、スケジュール管理をしているメイドだ。その彼女がここにいるという事は……。
「おかえりなさいませ、マルク様」
「あ、ああ……ただいま。これは一体?」
「国王陛下から、マルク様への誕生日プレゼントでございます」
やはり、これがプレゼントだったか。一体父上は何を考えているんだ? 中に猛獣でも入っているというのか? 個人的には猛獣よりも、小動物の方が好みなんだが……。
「中を確認したい。その布は取っても問題ないか?」
「どうぞお確かめくださいませ」
そう言いながら、メイドは布をゆっくりと外す。すると、中に入っていたのは……一人の少女だった。
牢屋の隅っこで、膝を抱えて座っているせいで身長や体格はわからない。薄い紫色の髪に、涙で潤んだ赤い瞳の美しい少女は、今にも破れてしまいそうなくらいボロボロな一枚の布切れしか身にまとっていない。
それ以外にも、髪はボサボサだし、身体中に生傷や大きな傷跡があるのが見て取れる。
「この少女は……?」
「はい。国王陛下が先日、オークションに行かれた際に、購入した奴隷です」
「奴隷……!?」
父上の行かれたオークションというのは、王族や貴族のみが参加できるものなのだが……そこには法で禁止されている物が売られる事がある。例えば危険な薬物や、不正に取引された宝石。そして……奴隷の売買。
本来なら、法で禁止されている盗品や奴隷の売買をしている商人を取り締まらないといけないはずなのに、むしろ国のトップである父上や貴族、そして僕の兄上達も喜んで参加し、購入している。
——この国は狂っている。法は全ての者を守るために存在し、全てに平等であるべきはずなのに、この国の法は権力者達に優位に働くようになっている。
僕の住んでいるこの城の周りには、権力のある人間や、極一部の金持ちの一般人が幸せに暮らしている。その一方で、幸せに暮らしている人間の何十……いや、何百倍の貧民が、毎日を必死に生きている。
その貧民層を助けるのが、本来の国としての在り方だと僕は思っている。だが……現実は真逆で、国は貧民に重税を課し、低賃金で過酷な労働を強いている。その税が払えない人間は……身体を売るしかない。
おそらくこの少女も、税を払うために奴隷を扱う商人に借金をしてしまい、それが払えなくなって……今に至るのだろう。
こうして改めて国の犠牲になった民を目の当たりにすると、自分の力の無さが恨めしい。僕にもっと力があれば……せめて長男だったり、王位を将来継ぐ予定の人間だったら、こんなふざけた国を変える事が出来るのに……!
「……せっかくの奴隷だ。まずは一人で楽しみたい」
「かしこまりました。失礼いたします」
「マルク様、私は部屋の外に待機してますので」
「わかった。ありがとうサルヴィ」
彼女と二人きりになりたかった僕は、それらしい事を言ってサルヴィとメイドを部屋の外へと誘導してから、改めて少女に向き合った。
驚かせないように、ゆっくりと牢屋にかけられた布をずらすと、少女と目が合った。その瞬間、少女は酷く怯えるように眉尻を下げながら、ガタガタと震え始めた。
困った。ここまで怯えられてしまうと、話をまともに聞いてくれないかもしれない……まずは僕に敵意がない事を伝えなければ。
そう考えた僕は、ゆっくりとした動きで牢屋の中に手を伸ばした――
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