第12話 集まる竜騎士/最後の一球はどこへ

 試合当日

 試合開始前のベンチで宮野は深呼吸をし、自分の顔を叩いて気合を入れた。

 そして、左利き用のグローブをはめた。

「あれ、宮野って左利きだっけ?」

 チームメイトが聞く。

「元々親父に両方使える様に叩き込まてるから」

「まじ?」

 宮野はマウンドに立った。

 フェンスの向こうからは、蓮と白いつばの広い帽子を被った。白いワンピースの少女がいた。


 試合前日

 蓮、宮野、ケラト、朱天羅の4人に加え、二野目、悠里も話に加わっていた。

 二野目は朱天羅が呼んだらしく。

 二野目が悠里を連れてきたらしい。

「良いですか?皆さんは蓮様の野球観戦の為、そして、宮野さんの最後の登板の為に御二方を怪人から守って欲しいんです」

「お、おう……」

 さすがの二野目も、ケラトの全力さに押されて何も言い様が無かった。

「でも、確実にそれが出るって証拠は?」

 二野目が聞く。

「怪人は主にスポーツ選手を狙うので、宮野さんなどを狙う可能性が高い、かつこの日にスポーツのイベントがあるのはこの野球試合のみなので、大量に手に入れるチャンスだと思うんですよ」

「まぁ確かに……か?普通に運動してる人も狙うんじゃ……」

「大丈夫です、やる場所は運動公園にあるので結構運動してる人が多いので、他の人が狙われたとしてもすぐに駆けつけられます」

 ケラトは地図で場所を指さして言った。

 そこは街から少し離れており、多少暴れても問題は無かった。

「それでは、皆さんは地図に書いてある位置に居てください。当日トランシーバー配るので。それでは皆さん、ご武運を」

 そして、当日。

 それぞれの位置に居た。

 北にはケラトが。

 南には朱天羅。

 西には二野目。

 東には悠里が。

 そして、球場には、蓮と悟が。

 蓮は球場の座席で緑茶のペットボトルを飲みながら、試合が始まるのを待っていた。

「暑いな……今日」

 すると、隣に女がいる事に気づいた。

 白いつばの広い帽子に、白いワンピースを着た女。

 歳は蓮と同じ程と思えた。

(珍しいな……こんな所に来る人……俺みたいに友達が出てるのか?)

 すると、女は話しかけてきた。

「あ……あの」

 蓮は彼女に顔を向ける。

「なんです?」

「宮野……悟って人知ってます?」

 蓮は少し驚いた。

「あ、はい……」

「今、何してるか分かります?」

 蓮は彼女から少し目線を逸らしながらも、答えた。

「特にってところは無いんですけど。まぁなんというか……良い奴ですよ」

「そうですか……あっそういえばお名前は?」

「橘……蓮です」

「へぇ……ってあの?」

 蓮は思わず彼女の顔を見た。

 彼女は茶髪のロングヘアで、おっとりとした顔つきだった。

「……どなた?」

「あっすみません。私笹崎芽衣って言います。悟くんにはちょっと世話になってて……蓮……くんってコスプレ良くするんですよね?」

 蓮はお茶を吹き出した(地面に向かって)。

「……え?!」

「ガワコスって言うんですかね?良く鎧のキャラの鎧をつけてるって聞いたんですけど」

 蓮は思考がパニックになる。

(どこから聞いたんだその情報?!確かに竜装はするけどそれはコスプレじゃねぇぞ?!)

「……誰からそれを?」

「悟くんですけど」

 蓮は目を手で塞いで頭をあげる。

(何を伝えてんだあのアホぉぉぉぉぉぉぉぉ?!)

「鎧以外にもなんかコスプレしてるんですか?」

「いや、あの……」

 蓮は答えるのに戸惑った。

(どういう経緯でんな事言ってんだぁ?!あいつ?!)

 蓮はしばらく困惑した。


 そして、時は来た。

 北から奴は、来た。

 アノマロカリスの様な怪人が。

「怪人め……試合は邪魔させない……」

 ケラトはすぐにトランシーバーを手に持ち、連絡をする。

『皆さん!敵は北に来ました!』

 3人に伝わったのかは分からないが、ケラトはレイピアを怪人に向ける。

 怪人はレイピアなどの見えていないようにケラトとの間合いを詰める。

 そして、怪人は立ち止まり、ケラトに光球を放つ。

 ケラトは盾で防ぎ、一気に間合いを詰め、レイピアを腹に突き刺す。

 しかし、腹は固くレイピアが弾かれ、ケラトは吹き飛ばされ、地面に転がり、全身に痛みが残る。

(何だこの強さ……)

 怪人がケラトの首を掴もうとしたその時、とある声が聞こえた。

「パウパウルシ・パール・パルル」

 突如野球ボールが怪人の方へ飛んで行き、怪人に激突する。

 しかし、怪人には痒い程度しかし効いていなかった。

「ケラトさん、私来ました!」

 悠里は、杖を怪人に向けて、呪文を唱える。

「パウパウル・パフール・パルジュンコ・パルル」

 そう言うと、怪人は動きが鈍る。

「今だよ!にのくん!」

 すると怪人の後ろから二野目が鎖鎌を投げ、背中を集中して鎌で切りつける。

「ナイスゆーちゃん」

 怪人の背中は少し傷ついたが、あまりダメージに入ってるとは思えなかった。

「効いてるか?こいつ?」

「分かりません、でも攻撃しないと」

 すると、朱天羅も現れ、盾から生えた剣で怪人を攻撃するも、ダメージと言うダメージが見られない。

「何よこいつ、攻撃通るの?」

 怪人はびくともせずただ耐えていた。

「きっと何かダメージになる場所がある筈です、悠里さんはそのまま魔法を、私たち3人で攻撃を続けます」

 ケラトも立ち上がり、怪人に連続して攻撃する。

 しかし、怪人にダメージが入る事は無かった。

 攻撃の最中、ケラトは考えた。

(どうして……攻撃が効かない……どこに攻撃すれば……)

 そんな時、朱天羅は呟いた。

「中から抉れないかな……」

 ケラトは閃いた。

「皆さん!!口抉りましょう!!」

「「「え?!」」」

 ケラトの唐突な過剰発言により、3人は少し驚いた。

 ケラトは容赦なく怪人の口にレイピアを突き刺す。

 すると、怪人は悶え、ダメージが入るのを感じた。

「やっぱり……」

 その時、突如悠里が倒れてしまった。

「悠里さん?!」

「ごめん……竜力切れ…」

 怪人は暴れ、3人をを吹き飛ばす。

 そのまま怪人はすぐに球場に向かおうとするが、二野目が鎖で怪人を巻き付け、何とか抑えようとした。

「てめぇ何逃げてんだよ……」

 しかし怪人は暴れ、二野目の鎖を引きちぎる。

「うそぉ?!」

 今度は朱天羅が盾で押さえつけるが、怪人は盾を投げ飛ばし、朱天羅の腹に拳を放つ。

 朱天羅は吐血し、膝まづいて倒れる。

 そのまま怪人は1歩ずつ、ゆっくりと球場に向かっていく。

 その時、1人の男が叫び、怪人の目の前に立つ。

「我の名はケラト・トリケ!竜騎士団二番隊隊長貴様の悪しき行為に制裁を下す!」

 ケラトは深呼吸をし、レイピアに竜力を込める。

 レイピアは水色に光り輝き、怪人の口を狙う。

「トリケ奥義 青空の角《スカイスピアー》」

 ケラトのレイピアは怪人の口を貫き、頭を貫通した。

「成敗」

 怪人はその場に倒れ、消滅した。

「やった……」

 ケラトは鎧を解き、倒れた。

 ケラト達の激闘から数十分後の事。

 野球の試合はいよいよ大詰めを迎えていた。

 9回裏、相手チームの攻撃、2-1で悟のチームが有利。

 満塁ツーアウト、ツーストライク、スリーボールフルカウント。

 場の空気は重くなり、緊張がはしる。

 悟はそんな空気の中、深呼吸し、最後の1球を。


 投げた。



 球は、バットを避け、キャッチャーミットに収まった。


「よっしゃああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!」


 誰かがそう叫んだ。

 悟はそのまま膝から崩れ落ち、青空を見ながら、気を失った。

「やったよ……芽衣」

 観客席で1人の少女が涙を流したのは、言うまでもない。

 夏は、まだまだ続く。

 To Be Continued

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