第494話 男たちのバンカー(5) at 1996/3/1
「あ、あらあらあら……。これでもガキの頃、ジャンケン王名乗ってたんですけどねぇ……」
小山田――グーに対し、口上売り――チョキ。
まずは先制の一勝だ。
「あはは。こりゃマズい、こりゃマズい。次は勝たないと……っと」
見えない汗をぬぐうフリをする若い口上売りのおどけた仕草に、集まった客がくすくす笑う。手をしきりにこすり合わせ、指をからませた両手をひっくり返し、できた隙間から闘志に燃える小山田を覗き見る。まだまだ余裕がありそうなフンイキだ。
「さて……二戦目……いきましょうか?」
「ちょ――ちょっと待ってくれ」
「?」
そこで突然、小山田はかたずを飲んで見守っていた僕らの方へと振り返った。
「おい、ムロ、それから、モ――モリケン」
「?」「!」
小山田は、真剣そのものの眼差しでこう続ける。
「俺様は、てめぇたちとチカラを合わせてあいつに勝ちてぇんだ。『友だち』とな……頼めるか?」
「た、頼めるか、って、ダッチ……」
僕のことをまともに『モリケン』と呼んでくれただけでも驚いたのに、大事な残り二戦を託したいのだと小山田は言っているのだ。しかも、あれだけ嫌がっていた『友だち』として――。
やがて、室生はうなずいた。
「………………引き受けた。まかせて」
「え? え? ム、ムロ?」
「だって、断れるワケないだろ。他ならぬ『友だち』のダッチの頼みなんだから。僕はいくよ」
えらいことになってしまった。しかも、しれっと二番手として先に室生に手を挙げられてしまった。ということは、大事な大事な三戦目は――僕だということになる。これは……マズい。
「最初はグー……だったよね?」
「はいはい、もちろんですとも、お客様。さてさて……ではでは、二戦目と参りましょうか!」
――最初はグー!
ジャンケン――ポン!
どっ、とさきほどを大きく上回る喝采が巻き起こった。
「ち――や、やりますね……」
室生――チョキに対し、口上売り――パー。
これで小山田・室生・僕の友情チームの二勝だ。
「いやはや……こりゃマズいな。いくらなんでも叱られちまう! 次は絶対に負けませんよ!」
またも汗をぬぐうフリをする若い口上売りだったが、その額にはうっすら光るモノが見える。どうやら本気にさせてしまったようだ。困ったことに、最後に控えるのは僕なのである。
「さあ! さあ! ……三戦目は……そちらのお坊ちゃんですか? 今度は負けませんよー!」
そこで――である。
『分岐点が現れました』
(え……!? 今かよ!? しかもこれって――!!)
『過去あなたの行動:パー→
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