第483話 僕たちは天使じゃない(1) at 1996/2/23
「お、おう……。ムロにモ――ナプキン王子、ちょっと相談してぇことがあんだけどよ?」
おい、なんで言い直した。
ま、いいけど……。
二年のどのクラスも戻ってきた全国模試の結果に、わいわい、ぎゃあぎゃあ、と沸き立っている中、偶然室生の席まで届けものをしていたところに、小山田はもごもごと言ったのだった。
「んー? いいけど――」
「……ムロ、言いたいことはわかる。けど、本人の前で『コイツも?』って顔するのやめて」
「あははは。わかっちゃった?」
陰キャ代表のこの僕が、イケメングループのリーダー・室生秀一と、少々ギクシャクしていた状況を脱して小学校時代のようなカンケイを取り戻した――まではよかったのだけれど。この男、僕の前でだけは、やたらと毒を吐きまくるのである。お前は気の立ったキングコブラか。
室生――いや、ムロ曰くだ。
『普段はさ?
すんな。リラックスすんな。
リラックスしたら毒吐き散らかすって、そんなはた迷惑な哀しきモンスターはいらない。
そんな僕の中のモヤモヤを小山田が察するワケもなく。
「……こ、ここでか!? いやいやいやいや!
ついに僕の呼び名が『王子』になってしまった。でも扱いは奴隷並だ。それにしても、『河岸を変える』だなんて言い回し、どっから仕入れてきたんだ、この昭和の
襟首をつかまれて引きずられていく僕のうしろから、すれ違うクラスメイトたちに愛想よく声をかけている室生がついてくる――やあ、今日の髪型かわいいね、とか、よう、カノジョとうまくやってる? とか、この前の試合、惜しかったな! とか。ハリウッドのセレブかよお前。
「よ、よし! ここいらなら構わねえだろう。おい、とっとと立てって、キンプリ!」
「略し方が雑」
「あぁん!? ……ま、いいか。ともかくだ。俺様はお前たちのチカラを借りなきゃなんねぇ」
僕限定のダイナミック視点で凄んでみせたかと思いきや、急に小山田はそわそわと落ち着きを失い、やや伸びたスポーツ刈りの頭を、ごりごり、と掻いたり、意味もなくガンを飛ばすように右へ左へと首をめぐらせては太もものあたりを、すりすり、とせわしなくさすりはじめた。
「チカラを借りる……って、ダッチにしては珍しいね」
「そ、そうか? お、俺様はいつもと変わってねぇつもりなんだがよ……なあ、貸せよ、おい」
「はぁ……そういう時は『貸して
またもや、あぁん!? とヘビー級ボクサーのアッパーカットのごとくせり上がってきた小山田の顔をぎりぎりで避けながら、強引すぎる小山田の『助けろください』を聞くことにした。
「そもそも、助けろ、助けろったって、なにがどうなんだか言ってくれないとわかんないって」
「おま――っ!? 馬鹿っ! そこは察しろよ、ほ、ほら! あ、あれだって! ほらほら!」
僕らのやりとりがよほど滑稽だったのか、突然室生がお腹を抱えて押し殺すように笑い出した。たしかに、出来の悪い漫才みたいな掛け合いだ。けれど、室生はもう察しがついたらしい。
「ダッチ、まだ三週間もあるんだぜ? そんなに慌てなくっても……」
「いいや、違うね! たった三週間しかねぇんだよ! たったの!!」
三週間……?
ああ、そういうことか。
ようやく僕にもハナシの目的地が見えてきた。
しかし、僕は参考になれそうにないハナシだ。
「つまりだ……。『ダッチの相談ごと』っていうのは、バレンタインのお返し、ってことか」
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