第399話 ぴろーとーく。 at 1995/12/23
「いっ………………一緒に寝るの!? ぼぼぼ僕と!?」
やっぱり朝までにはショック死するんじゃないか、僕。
絶句して絶叫すると、純美子は眉をしかめてみせる。
「だって、せっかくあるんだもん。あたし、ベッドで寝るの夢だったの。ああ、でも……二人で寝るにはちょっと狭いのかなぁ? どう思う、ケンタ君?」
いろいろ部屋の中はキレイに掃除して片付けて、準備万端だったつもりだけれど、そんなこともそんな期待もしていなかった僕は、逆にベッドに関してはほぼノータッチだったのである。
自慢じゃないが、寝る時には多少のよだれも垂らすだろうし、なにより僕の匂いが嫌というほど染みついている、ここに引っ越してきた時から長年愛用しているシングルベッドだ。
そこに。
「むっ、無理無理無理無理ぃ! 狭いし、臭いだろうし、お客様用のお布団あるからそっちに」
「あっ。じゃあ、そっちにケンタ君は寝てもらうとして、あたしがベッドって手もあるよね?」
「どうしてもベッドに寝たいんだね……」
「そ・れ・に。すん、すん……。ほら、臭くなんてないよ? ケンタ君の匂いしかしないもん」
「うーん、それが問題なんだよなぁ……」
ぽりぽり……と途方に暮れた僕が頭をかいていると――えいっ! ぼすん!
「えへへー。こうしてれば二人でもじゅうぶん寝られるよ?」
「うはっ! ちょ! ちょ! 近い! ち、近すぎません?」
「………………あたしとこうしてるの……嫌?」
「そっ! その質問はずるいよぅ……」
中学生女子に見事に手玉にとられている四〇男(童貞)。精神的にも中学時代に戻っているんだろうか、僕。ただでさえヘタレなのが、輪をかけてヘタレになっている気がします……。
「ケンタ君と、こうしてお話ししたかったの! だって、出会ってからいろいろあったもん」
「あー……たしかにそうかもね」
目と鼻の先には純美子の顔が。うっとりしているような、とろん、とした大きな瞳。思えば、純美子ともう一度はじめからやり直したい一心で、結果的にいろいろと巻き込んでしまった。
「僕のせいではちゃめちゃだったよね。実は地味に、サトチンの家が女子宅初訪問だったり」
「それはちょっとジェラシー……ぶーっ」
「お、お見舞いだったんだからしようがないでしょ!? ふてくされない!」
「あたしは、男子と一緒に下校したの、ケンタ君がはじめてだったなぁ。はじめてだったの」
「なんで二回言ったの!? ……まあ、いいけど」
「そうそう! 突然、新しい部活作る、なんて言い出したから、すごく驚いちゃったよー!」
「あはは……。でも、作ってよかったとホント思ってる。おかげでみんなと知り合えたもん」
「なんだかあたしまで入ることになっちゃって……でも、ケンタ君と一緒にいたかったから」
「う……うん、ぼ、僕も……」
「………………ね?」
あ、あれ?
これ、ここ、今、とってもいいフンイキなんじゃないの!?
チャンスなんじゃないの!?
というわけで、んちゅー、とやってみたのだけど。
「もう! ロコちゃん、強引なんだもん! ロコちゃん、今夜は室生君とデートなのかなー?」
見事にスルーされてるし。
ま……いっか……。
それよりも、今の純美子のセリフにこたえを出してあげることにしよう。
「あー……。ロコならたぶん、ウチにいるんじゃないかな? ひとりで」
「え……どうしてそんなこと言うの?」
「あ、いや、だってさ――」
きっと月曜の学校での二人の会話を、純美子は聞いていなかったのだろう。
「外せない家の用事があるから、ってロコが室生の誘いを断ってるのを偶然聞いちゃったんだ」
「だから、ロコちゃん、あんなことを……! ケンタ君……君に話しておきたいことがあるの」
僕をじっと真正面から見つめる純美子の大きな瞳が、カノジョの決意と覚悟を物語っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます