第391話 マイ・ファースト・パーティー(6) at 1995/12/23
「じゃあ、そろそろクリスマスプレゼントの交換会をやって終わりにしますかー」
気がつけば、時刻はまもなく夜の九時。
さすがにそろそろお開きにしないと、水無月家にご迷惑がかかってしまう。
僕らは今日の日のために、それぞれ予算一〇〇〇円以内でクリスマスプレゼントを購入して持参してきた。ただし、あげる相手はランダム。誰に自分の買ってきたプレゼントが渡されるのかは、その瞬間にならないとわからない、というゲーム感覚の奴なのだ。
「はい! では、ひとりずつ、この袋の中からプレゼントをひとつ取ってくれるかな?」
より公正を期すために、プレゼントの管理役は笙パパにお願いした。わざわざサンタクロースのコスプレをして――もちろんつけヒゲもだ――大きな白い袋の口を開いて、みんなの前に差し出している。僕を含めたみんなは、その中に手をつっこんで、ひとつだけを選ぶのだ。
「ほっほっほー! あと、プレゼントをもらってない子は誰かなー?」
「あ、あたし! ……って、ケンタもでしょ?」
「僕は最後の奴でいいんだ。残り物にはなんとやら、って言うからね」
「うっわ! じじ臭……っ」
やかましいわ。
お前だって四〇歳のおばさんだろうに。
てなことを言えるはずもなく軽く肩をすくめ、袋の中に残っていた最後のひとつを手にした。
「ね? ね? 誰から開ける? これ、あげた人だけわかってる奴じゃんねー? あんたは?」
「本気で選んだのかギャグで選んだのか、どっちかによるよねこういうのって……開けます!」
半ば咲都子に強制されて渋田がトップバッターになった。他のみんなのプレゼントと比べて、やけにひとつだけ大きい。遠慮なく一気に包装紙をはぎ取り、その中から出てきたのは――。
「ジグソーパズル! 割とニガテなの来たー! しかも……1000ピースって多くない!?」
「あ、あたしのです……ごめんなさい、渋田サブブリーダー……」
「いやいやいや! やっぱりプレゼントだからうれしいんだけども! ……あ、なるほどねー」
「何よ、その『なるほど』って?」
「サトチン、わかっちゃったんですよ、この僕には。これ、山中湖から見える富士山でしょ?」
「あ! は、はい! そ、そうなんです!」
勘のいい渋田の指摘に、水無月さんの緊張気味の表情がたちまち、ふわっ、とほころんだ。
「な、夏の部活合宿……あたし、あんな楽しい経験したのはじめてで……。それで、なんです」
「そっか」
渋田もつられて、にかっ、と笑った。
「よーし! じゃあがんばって完成させて飾らなくっちゃ! このチャンスにパズル克服だ!」
それから、次々にみんなの用意したプレゼントが開封されていった。
大好きな部員の誰かの手に渡るはずの、特別で、大事な、ココロと想いをこめたプレゼント。ハート形のアロマキャンドルに、かわいらしい刺繍のほどこされたハンカチ。バターの風味豊かなロール型の焼き菓子に、リラックスタイムにぴったりのハーブティー。なかには、送り主の顔が浮かんできそうな電子工作キットの一石ラジオなんていうのもあったけれど、それはそれで、きっと新しい発見と驚きがあって、冬休みの間にじゅうぶん楽しめるはずだ。
だが――。
圧倒的にセンスの欠けている奴ってのもいるわけで。
「……ちょっと、ケンタ? この、図書券1000円分、っていうなんの味気もないの、何?」
「あー。うん。………………ご、ごめん」
いやですね。
本当に何も思いつかなかったんです。
しかも、それがよりによってロコの手にわたるとか、まったく予想していなかったわけで。
「はぁ……ホント、苦労するわね、スミも……。欲しいものは言わないとダメよ、こいつには」
「こいつって言うな! ……っていうか、すみませんです、はい」
まさか自分がオチになるとは思わなかった。
けど、笑いが取れたからいっか……ははは……。
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